「出水ーブリーチっていくらくらい?」
「自分ですんなら800円くらいじゃね」
「そんなもんか」
「春ブリーチすんの?」
「夏休みだけしよっかなって」
「真面目かよ」
「すんならやっぱピンク?」
「何、米屋髪ピンクにするの?」
「しないわ」
「緑だろ」
「ビジュアル系バンドじゃん」
「うけるな」
「うけねえわ」
「あたしのために荒そうのはやめて〜」
「ドンマイ」
「ドンマイ」
「…うん」
何だこの微妙に切ない会話は。
B組の隣のC組を間に挟んだD組の例で、三浦雄太は気付かれないよう出来るだけ背を縮めながら考える。
終業式の真っ只中に、ステージの上で話している校長先生に目もくれず後ろを向いて話している時点で真面目もクソもないだろと言いたい。ここは放課後のクイーンバーガーじゃない。
男子2人の中に女子という組み合わせは珍しいわけではないけれど、普通はお互い扱いや言葉に気をつけるものだと思うが彼らのやりとりからはその類の気遣いを感じなかった。気は合うらしく学校でもボーダーでもよくつるんでいる。揃ってA級戦闘員なこともあり学校でも有名人だ。

あ、先生だ。
生徒の間を窮屈そうに通り過ぎ、目的地に到着した先生が容赦なく出水と米屋の頭をゲンコツで殴る。
それを見て爆笑する春ちゃんも2人と同じように殴られる。こういうのって、女子は免除されるものなんじゃって眺めていたら、所々から「女子にも容赦無し」と聞こえてきた。
渋々前を向く3人。ため息をついた先生が生徒の列から抜けようと後ろへ向き直す、と同時に、出水と春ちゃんが振り返り、先生の背中にファックサインを突き立てる。
息ピッタリすぎるだろ。なんだこの人たち。口裏でもあわせてるのか?出遅れた米屋は少しあたふたしていた。

「ーと、言うわけでー、健康にー、夏休みをー…」

今まで全く耳に入って来なかった校長先生の声。
またどこかから「やっぱあの人達おもしろいよね」と聞こえた。まあ、暇つぶしにはなったかな。

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