11月の半ば、家々の間を吹き抜ける木枯らしがぴゅううと金切り声を上げた。ぶるりと身震いをして先ほど買ったホットココアを握りしめる。じわりと滲む温度が心地いい。すれ違う人達の中で、マフラーに顔をうずめて歩く人を何人か見つけた。ぴゅうう。木枯らしが吹き抜ける。秋は終わりを告げたのだ。

 ストーブをつけたばかりの図書館は下手したら外よりも寒いんじゃないかと思うくらい冷えていた。要因の一つとして、本が日焼けしないようにと他の教室よりも窓が少ないこともあるのだろう。外ならお日様が見られるが、この部屋は昼間でも電気をつけなければ薄暗い。

「さむい」
ガチガチと歯をにぎわしながら現れた春先輩があまりにも滑稽だったので鼻で笑ったら「じゃあ菊地原くんあっためて」とくっついてきたのでうっとうしくて蹴り倒した。なんともぶさいくな声を立てて転んだ拍子にパンツが見えた、と思ったら青いハーパンだった。先輩空気読め。

「…だからあんたにはサービス精神が足りないんだ」
「目こわ!!」

グッドタイミングだからバッドタイミングだかは分からないが、ブーンと音を立ててストーブがついた。いそいそとぼくから逃げるようにストーブの前に駆ける春先輩の後を追う。

「菊地原くんがカウンターに居ないと誰も本借りれないじゃん」
「なら先輩行ってください」
「女の子は足を冷やしたらだめだって迅さんが言ってた」
「そうですか」

ストーブはごうごうと音を立てて暖かい空気を吐き出す。誰かが図書館のドアを開く気配は無い。

「誰もこなかったね。」

戸棚を締めながら先輩が振り向く。

「…次、授業なんですか」
「知らない」
「……」
「菊地原くんは?」
「英語」
「得意科目だね」

じゃあ教室に行こうかと、春先輩が俺の手を引っ張る。小さい春先輩の手はストーブのおかげで温かい。俺は大人しく着いていく。いつもみたいに振りほどかなかったのは、春先輩の手の温度が朝のホットココアよりも1ミリだけ心地よかったから。

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