伊佐敷に好きな人が出来たらしい。

「言ってみなって」
「言ってみなよ」
「お前ら面白がってんだろ」
「まさか」
「友だちの恋路を応援したいって言うのは当たり前でしょ!」
「そうか まずはその半笑いをやめろ」

伊佐敷に好きな人が出来たらしい。やばい笑いが止まらない。あの暑苦しいあごひげをカッコいいと思ってる伊佐敷に好きな人?教室で人目を憚らず君に届けを読んで涙を流している伊佐敷に好きな人?ハッ面白すぎる。

「なあ全く応援したいって顔じゃねえんだけど」
「本当酷いなあ春は。純にもやっと春が来たっていうのにさ…ブフッ」
「お前もな」
「エヘッ」
「エヘッ」
「しばくぞ」

同時にチロッと舌を出した小湊くんとアイコンタクト。どうやら私と同じことを考えていたらしい。なんていうか、本当に類は友を呼びますね。

「何お前らすげー腹立つ」
「まあさ、とりあえず何組の誰か言ってみなって。俺を誰だと思ってるの?」
「小湊亮介」
「ドエス」
「身長が私と同じ」
「親不孝」
「えっ急になんでそうなるの?酷くない?いぢめる必要なくない?」
「…小湊くんて何気に打たれ弱かったりするよね」
「俺はお前らのおかげで結構打たれ強いぜ!」
「悲しくなるわごめんね」
「そうだよ。春なんてさ、…何でも、本当…打たれ強いよなあ…」
「………」
「あれなんでこんなにしみじみした空気になったんだろ」
「大丈夫、春なら1人でも強く逞しく生きていけるから」
「そうだな」
「とりあえず肩に手置くのやめてくんない」
「ところでさ、忘れてたけど純の好きな人の話だったよね」
「忘れてたのか」
「あっ!あ〜あったね…、……、…えっと?高島先生だっけ」
「違ムワアアアアア」
「…俺の見間違いじゃなければ今飛んできたのってコンパス(針)?」
「…伊佐敷が避けなかったら確実にや(殺)られてたよね」
「心臓縮んだぞ…」
「寿命ね」
「なあ…2人ともドアからもの凄い形相してこっち睨んでる妖怪も見えてるか」
「見える…!」
「見える…!」
「しかも見慣れてきたら御幸に似てないか」
「ハッ…!」
「見えてきた…!」
「ヤバいな…あれは御幸に乗り移った悪霊かもしれない」
「まじで?」
「ああ…昔父さんのの浮気を疑った母さんに取り憑いていた悪霊にそっくりだ」
「まじかよ!」
「可能性は高いな」
「じゃあつまり、伊佐敷の好きな人が高島先生ってことになってでも本当は違うんだけど浮気相手が高島先生になってるけど…御幸くんのお父さんが悪霊に…」
「よし春よくがんばった」
「と、とにかくよ、俺はどうすればいいんだ?」
「真の愛を伝えればいいんだ」
「誰にだ?」
「父さんは母さんに伝えてたけど」
「…俺、A組の白石さんに言ってくるわ!」
「え?」
「伊佐敷ファイトだよ!」
「おう!」
「え?」
「行ってくるぜ!」

勢いよく教室から飛び出した伊佐敷の背中を大手をふって見送る。


「…伊佐敷って白石さん好きだったんだね。叶うといいね」
「…春」
「何?」
「どうしよう」
「何が?」
「A組の白石さん楠木の彼女」

え。

830

index