あれほどやめろと言ったのに、すれ違う人を睨みながら観察する癖は治っていないし、あれほどやめろと言ったのに、地震と間違えてしまいそうなくらい激しい貧乏揺すりもやめていないし、あれほどやめろと言った女と付き合いあっさり捨てられたと聞いたときは正直笑いが止まらなかった。
「女の子見る目ないんだよ」
「うるせえ」
 ばつの悪そうな表情の伊佐敷は数分前に来た筈のオレンジジュースをすでに空にし、かさ増しの氷をガリガリと食べている。ああ、この癖も治っていない、と思った。
 高校を卒業し、大学に入学してから久々に会った彼は、中身も外見も何一つ変わりなく、待ち合わせしたときの相変わらずな見つけだしやすさと威圧的な態度。
「あんだけやめろって言ったのに」
 見るは見るでも面倒見の良さならそんなに悪くないのだが、それだけでは女の裏は見透かせない。惚れたが最後、一途一直線の伊佐敷は私や小湊の説得にも応じずその彼女の元に全速力でかけて行ってしまった。
「いいんだよ、騙された俺が悪りいんだ」
 こっぴどいフられ方をしたと人づてには聞いていたが、それでも尚元カノをかばう気遣いに彼のお人好しの良さを垣間見る。
「まあ、お前みたいなやつと付き合ってたら高校生活充実してたとは思うけどよ」
 そういう無神経なところも。こいつは本当に何一つ変わらない。

 それは無いわと返したら、俺もそう思うと返ってきた。
 ああ、しんと静まる心臓の音もなにもかもが虚しい。

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