窓の向こうからか細い北風の声が聞こえる。珍しく誰も居ない教室で暖かい息を吐き出すストーブを独り占め。ありきたりでありふれた放課後の教室。これはこれで心地がいい。俺は日直として最後の仕事をこなすため適当な文字をつなげて学級日誌を埋めることに奮闘していた。途中、がらりと正面側の教室のドアが開く。顔を上げればそこには頬と耳と指を真っ赤にした、見るからに寒そうな女の子が立っていた。

「たた多田野くんだ」
「どうしたの」
「ここのクラススストーブ」
「ついてるけど」
「おおお」

北風の鳴き声と静かに唸るストーブの音。その前で体を温める藤真さん。そろそろ書き上げないと部活に間に合わなくなってしまうのに、書くことは思い浮かばない。

「多田野くん日誌書くの遅くない?」
「なんだか書くこと思い浮かばなくて」
「うーん。今日なにあったかなあ」

いつの間にか前の席に座り、今日のお弁当は唐揚げが入っていたとかなんだとかを話し始めてた女の子の、残念ながら使えそうにない内容に適当な相づちをうつ。ふと目についた彼女の頬はまだ赤い。

「藤真さんは何してたの、こんな時間まで」
「あーっとねー…」
「うん」
「あのねー」
「うん」

「帰ろうとしたらね、成宮先輩がさ、いて」
「………」
「あいさつ、した のよ」
「…へえ」
「がんばってくださいって言ったらサンキューだって!」

自分で言いながらまた思い出したのか、でれでれと笑う女の子の頬をなんとなくつねったら、倍返しで殴られた。「多田野くんの隠れいじわる!」って再びストーブの前に逃げる女の子から日誌に視線を戻す。
今日あったこと。何度目かの失恋をしました。書けるわけない。

不鮮明

別に期待してたわけじゃなくて、ただちょっとだけ期待してみただけ。
150911

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