※プロ入り後


その出来事を知ったのは帰宅途中に友達から掛かってきた1本の電話だった。通話口から語られる内容にまっさかぁと笑いながらも、言われるがまま道すがらのコンビニで買った週刊誌には、今まさに自分が歩いて来た道を2人並んで歩く雅功と私の姿が写っていた。一応私の顔にモザイクはかけられているけれど、見る人が見たらすぐ分かる。
おまけに私が雅功が球を打つ時のフォームのモノマネをしていたときの写真も一緒に載っていて、履いていたミニスカートからあげた左足のせいで際どくパンツが見えそうで、なんというか、非常にまぬけだった。


「夜も絶好調な原田雅功!深夜美女との密会デートをキャッチ!!美女って私のこと?照れるな〜」
「おい」
「今月15日夜9時に新宿駅で待ち合わせした新人王原田選手の今回の食事相手はミニスカ美女のAさん。有名レストランでの食事後、互いに非常に酔った足取りで自宅マンションに消え…」
「もういいだろ」
「あ」

座っていたソファーの後ろから取り上げられた週刊誌は当の雅功には一瞥もくれてもらえずゴミ箱に放り込まれた。雑誌は燃えるゴミじゃないよ、言いかけてやめた。
しかしまさか、自分が生きているうちに週刊誌に登場するなんて思っていなかった。ところで。

「ねえ、この時私一滴もお酒飲んでないんだけど」
「そうだな」
「というかあのお店有名だったの?」
「知るか」

それはそれは不機嫌そうな雅功が私の隣に座ってテレビをつけると、先ほど見ていた週刊誌の写真が再び画面に現れた。コメンテーターふうの女の人が「この女性結構酔ってそうですけど飲ませすぎじゃないですか?」と言っていた。だから私この日はお酒一滴も飲んでませんけど?しかもなんでちょっと上から目線?
舌打ちをしてテレビを消す雅功に少しだけ同情する。

「プロってすごいね、撮られてるの全然気づかなかった」
「…」
「今このマンションの下にも居るのかな」
「かもな」
「そっか」

今日はこれから手紙を出しに行こうと思っていたのだけど、なんだか緊張するなあ。それにこれから雅功と出かけるたびこんな風に写真を撮られるのかなあと思うと少しだけ気持ちが重くなる。そんな気持ちを察してか雅功が口を開いた。

「…悪かったな」

ぽんと頭に大きな掌が乗せられ雅功が目を伏せる。

「先輩に気をつけろとは言われてたんだが、こんな風にならねぇと自分が有名人になったってわからねぇもんだな…」
「な、なんで謝るの。別に雅功は悪くないでしょ、ただいつも通りご飯食べてただけじゃん、というか私のせいで雅功のイメージ、わ、悪く〜…」

全然そんなつもりは無かったのに、乗せられた掌の温かさのせいでぽろぽろと涙が溢れてきた。こんなまぬけな彼女のせいであんな写真を撮られたことも、あることないこと好き勝手に言われているのも申し訳なくて悔しい。

「別にお前がまぬけなのは今に始まったことじゃねぇよ」
「雅功もまぬけと思ってる…」
「美女でもねぇし酒一滴も飲んでなくて普段からこうなのも知ってるしな」
「うう…」
「だから…籍入れるか?」
「う……えっ?」

あまりにも唐突で脈絡もない申し出に耳を疑う。だからって意味が分からない。引っ込んだ涙を確認した雅功が私の頬の涙をごしごしとぬぐう。

「今回っつうのが気に食わねぇんだよ。他にも遊んでるみたいな言い方しやがって」
「え?待ってそこ?」

立ち上がった雅功が家の鍵を探し始める。玄関を出る直前まで止められなかったのは、彼の耳があまりにも真っ赤でびっくりしてしまったから。

151209

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