「なんで正座させられてんのか分かりますか」
「分かりません」
「なんで俺が怒ってんのか分かりますか」
「分かりません!」

放課後、いつも通り部活前のマネの仕事を始めようと準備をしていたら、制服の鳴くんが部室に入らず真っ直ぐこちらに向かってくるのが見えた。遠目越しに見えるその姿がとっても不機嫌そうなので、最初は愚痴でもこぼしに来たのかな〜八つ当たり面倒くさそうだな〜なんて考えていたのだけれど、どうやらその苛立ちの原因は私だったらしい。目の前で立ち止まり口を開くやいなや「そこ座って!正座で!」とプリプリ怒っている鳴くんに言われるがまますのこの上に正座したら、今度は質問攻撃。しかし全くもって原因がわからない。

「これを見ろ、見える?このプレゼントの数々が春には!」

はてなマークしか浮かばせられない私に向かって大げさなため息をついた鳴くんが、手に持っていた大きな紙袋を広げる。覗き込んだその中身は色とりどりの手作りお菓子だった。

「え、鳴くんの誕生日って今日じゃないよね…?」
「違う」
「よかった、あれ、じゃあ何」
「今日の春達のクラスの5 6時間目の授業は何だか言ってみろ」

つい先ほどの記憶をたどる。これとそれが何の関係があるのかは分からなかったけれど、ここは大人しく答えておこう。

「…家庭科?」
「調理実習したんでしょ!?」
「したけど…」
「なんで彼女の春が何も持ってこないの」
「ええ?!だって食べちゃったし」
「信じらんない!見てこの菓子の数々を」
「あ〜通りでお菓子作ってる班が多いと」
「あ〜じゃ、な・い・よ!」

べしっと音を立てて鳴くんのデコピンが私のおでこに衝突する。

「痛っ!!いいじゃんそんなに貰えたなら!」
「よくないの!」
「さっきから何してんだ?」

鳴くんの後ろからひょっこりと現れた声の主はクラスも同じのカルロスくんだった。

「鳴くんが今日の調理実習で私達がお菓子作らなかったから怒ってるんだよ」
「アー」
「待って、今私達って言った?ふたり共同じ班だったの?」
「ああ、春の包丁さばき中々だったよな」
「えっ本当?」
「へえ、俺というものがいながらそんな夫婦 みたいなことしてたんだ」

つい褒められてでれっとしたら更にさらに怒りを増やしてしまったようだ。鳴くんがじっとり目でうらめしそ〜に私とカルロスくんを睨む。漫画だったら背中からジト〜〜という音が聞こえてきそうだ。

「浮気者」
「や、違うってば」
「そうだぞ春は鳴くんのお嫁さんになったときに恥ずかしくないようにって言っ「わーわーわー!バカルロスくんバカ!内緒って言ったじゃんバカー!」

とっさに叫びカルロスくんの言葉を遮るが後の祭りだった。唐突なカミングアウトにあたふたしながら無言になった鳴くんの顔をすのこから見上げる。

「め、鳴く…」
「怒んなって」
「べっつに、初めから怒ってないし…」
「ええ?!さっきまで怒ってるって」
「言ってませんーていうかいつまですのこに座ってんの」
「な!それも鳴くんが」
「おっそのココアクッキーうまそ」

ふたたび言い争いが始まりそうな空気を察してか天然か、全く空気の読めてない発言を繰り出すカルロスくんが紙袋に手を伸ばす。

「ココアみたいな顔して共食いかよ」
「ドイヒー」
「うるせ」

お菓子をおすそ分けしてもらえないと分かったカルロスくんでちぇっと口で言いながら先部室行ってるなと背を向けていってしまったた。そして取り残された鳴くんと私。

「さっきの、本当?」
「さっきの?」
「お嫁さんにって」
「う、うん…」
「俺、それ覚えてるから、絶対手料理食わしてよね」

その言葉にドキっとして鳴くんの言葉に顔を上げると、もう鳴くんはそこには居なかった。は、早…


部室にて。
「お嫁さんだって、春ってほんとアホ可愛いよね!」
「今度はそれ春に言ってやろ」
「もし言ったら埋める」
「ワオ」
「で結局カルロ達は何作ったんだよ?」
「あ?牛丼」
「そりゃ持って来れねーわ!」

151207

index