暑くも寒くも無い、鬱陶しい眩しさもない、とても心地よい日だった。布団に籠りっきりの俺にゃア心地よい日もクソもあったもんじゃねェが、本当に、とても心地よい日だった。あいつが気を利かせて開けてくれた襖へ視線を傾ければ、ゆらゆらと流れる雲が目に入る。それから、どう取って付けても真撰組には似合わない花の香りがふらりとやってきたり、誰かが餌付けた猫のにゃあという鳴き声が聞こえてきたり。
今日は、とても心地のよい日だ。

今まで犯してきた自分の荒くれが嘘だったんじゃないかと、ただの空想だったのではないかと錯覚してしまうくらいに。ずっと前から、俺は病弱で布団の中で生活していたのではないかと錯覚してしまうくらいに。侍は見栄っ張りでいけねェや。軽く自嘲し口を閉じる。ずっと布団の中にいたせいで、自分の爪が伸びっぱなしだったことに気付く。爪切りを出して貰おうと立ち上がったところで、目眩いがした。

悪くない人生だったと、思った。
目を瞑ったとき決まって瞼に浮かぶのは、いつかの、いや、全ての記憶に残る仲間達の笑顔だ。


死後を愛せるか 090206

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