女はね、武器を手にすることは出来てもお侍にはなれないんですって。男の人達はみんなそうやって…でも武器も何も持たない私達に出来るのはあの人達の無事を祈ることだけね。


 風鈴の音色が風に乗って揺れている。蚊取り線香を間に腰掛けた縁側で、いつものように優しい口調でそう呟いたミツバさんはどこか寂しげな笑顔を浮かべた。
きっと今ミツバさんの視線の先にはあの日の奴らの後ろ姿が映っているんだろう。わたしは小さな声で本当ですねと呟いて足下にあった小石を奴らの後ろ姿に向かって蹴った。


 芋侍のくせに何が江戸で一旗だと小馬鹿に出来たのもほんの始めのうちだけで、どうせすぐに帰ってくるだろうと高をくくっていたわたしの予想は大はずれで、真撰組はあれよあれよと江戸の秩序になっていった。らしい。喜ばないわけじゃない。でも奴らが出世して心から応援出来ないのは、あまりににもデメリットが多すぎたからだ。江戸に行って一年二年と月日が経つにつれて総悟や近藤さん達から送られてくる仕送りの額がどんどん増えていった。それに比例して奴らから来る手紙の数はどんどん減っていく。日を増すごとにミツバさんの病状は悪くなっていった。それなのに、奴らからの電話の回数は少なくなっていく。
 遠くで起こっていく変化が嫌だった。自分の目に写らない感情が気持ち悪かった。大好きだったみんなが大嫌いになった。当のミツバさんはというと、相変わらず、小さく微笑んで、奴らの後ろ姿を見ていた。

不揃いな心 080805

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