なんだか雲行きがあやしいなあと空を見上げていた授業中の空は昼休みになる頃にはすでに暗雲立ち込めざあざあと雨を降らしていた。もうすぐそこまで夏が迫っている。1日でも練習が限られることが惜しい。はやく少しでも鳴さんに近づきたいのに、こんなんじゃ足がもつれてしまいそうだ。

移動教師の授業が終わり、教室に帰ろうと廊下を歩いていたら鳴さんとカルロスさんと春さんに出くわした。春さんは鳴さん達のクラスメイトで、学校ではよくこの3人でつるんでいることが多いので名前を覚えた。部活のマネージャーでもない女の先輩を名前で呼ぶなんてあまりないから初めは緊張したが、もう慣れてしまった。そもそも俺は春さんの苗字を知らない。ってそんなことよりなんで鳴さんはカルロスさんに首根っこ掴まれてるんだ?

「どうも」
「お〜樹じゃん」
「成宮それホコリだからね」
「目の前の樹に見向きもせずホコリつまみ上げたな」
「流石成宮だねえ」
「本当だな。なぁ樹」
「俺こっちですけど!?ていうか、なんで鳴さん首…うわぁ…」

さっそく3人がかりでいじってくる先輩方の話を切り上げるようにカルロスさんを見上げたら顔面が謎の黒い斑点まみれで、即座に状況はなんとなく理解した。またタチの悪いいたずらである。

「こいつだよ」

カルロスさんが鳴さんを首根っこごと差し出す。

「だから俺だけじゃないのに!」
「私はもう謝ったよ」
「くそペチャパイ春…」
「おい何つった今」

春さんの両手が鳴さんのほっぺを引っ張っぱり出した。あ、少し羨ましい…

「くっ…モチモチ…お餅みたい…」
「ひょうれしょ」
「俺のほっぺは?」
「なんかじんましんうつりそうだから触りたくない」
「したのお前らだろ!!」

入れ替わり立ち代わりでボケとツッコミが変わるこの3人の会話はとてもせわしない。まあなんだかんだ言って3人ともキャッキャっと楽しそうだ。エースピッチャーとか俊足ナンバーワンとか実はマヤカシでこの人ら本当は女子中学生なのでは?そもそもなんでこんな先輩達と春さんはいつも一緒にいるのか謎だ。下ネタとかけっこう言うけどなんて返事してるんだろう。

「ていうか神谷くんはやく顔洗ったほうがいいよ」
「…あーそれがさっき白河に洗顔借りようと思ったら教室に居なかったんだよな」
「うんこ?」
「便秘かな?」
「お前らと一緒にすんな」

ケラケラと楽しそうなお三方を見ていると、なんだかさっきまでの憂鬱が馬鹿らしくなってきて、すこしだけ足取りが軽くなる感じがした。

0221 くらくらにじむ

index