「私は成宮くんのことが高校のときから好きでした」
「こわ」

隣で遅い晩ご飯を食べている鳴が箸を止めてドン引きしている。鳴は思っていることがすぐ顔に出る。高校の時よりは大人になっているはずなので多少の大人の対応は出来るようになってきたけれど、こういう咄嗟のリアクションは未だに脳内がただ漏れなので少し心配になる。
その原因は私が持っている薄ピンク色の手紙だ。世間一般的にはファンレターという。ただのファンレターに対してなにが怖いのか。この手紙が鳴の実家の郵便受けに入っていた。消印は押してあり差出人の住所も書いてあるが、普通ファンレターは球団の住所に宛に書くもので、本人の実家に送るものじゃないっていうのは私だけの常識なのかな。

「ファンですじゃなくて好きですって怖すぎでしょ、こういうやつが私プロ野球選手と結婚するとか本気で思ってるんだよ」
「偏見えぐい」
「真実だよ」

まだ1行しか読み終えてないファンレターを
取り上げた鳴が机の上にぽいと放る。実家に届いたこのファンレターを丁寧に息子本人に渡してくれる鳴の家族は器が大きい。さすがプロ野球選を育て上げた親は肝が座っている。

「この住所、実家かな?高校の近くだね」
「あっそ」
「くんて書いてあるし同級生かなあ、名前知ってる?」
「知らない」

もうこの紙切れにも触りたくないといった様子の鳴が視線をテレビへうつす。

「…」
「…なんで春が機嫌悪そうな顔するわけ」

そんな顔をしてたつもりはないが、顔に出ていたらしい。高校からの付き合いともなれば些細な感情は察せてしまうようだ。

「…わたしが偶然鳴と高校が同じで、好き合って今付き合ってるけど、話す機会もなかったらこの手紙の子サイドだったかもって思ったら、なんか」
「自分が言われてるみたいで悲しくなった?」

こくりとうなづくと、鳴はバカだなあと続けてそのままわたしを優しく抱きしめた。

「俺は春が野球部のマネじゃなくても春のこと好きになってたよ」
「ええ」
「道ですれ違ってもなってたよ」
「ウソお」
「それくらい春が特別ってこと!だからそんなの考えるだけムダムダ」

わたしの背中をぽんぽんと叩く鳴の手つきはきっとわたし以外誰も知らない鳴で、心の中に温かい安心感が広がった。


シンデレラの嘲笑


鳴、ごめんね。本当はわたし手紙の子が誰か知ってるんだ。3つとなりのクラスの女の子で、そんなに目立たなかったけど結構かわいいよ。未だに好きだったなんて知らなかった。だってわたしみたいにマネにもならないで接点を持とうとすることもしなかったんだもん。そもそも実家にファンレターってありえないよね。鳴に見てもらえるように努力もしないでただ見てるだけで振り向いてもらえるわけないじゃん、普通に考えたらわかるのに。バカだなあ。

160831

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