毎日学校行って、ある程度の点数採って友達と仲良くやってりゃ、先生達も親もみんな満足なわけですよ。馬鹿らしい。けど、これがこなせたら何とかなるのは事実で。
「いや、お前に友達がいようがいまいが知ったこっちゃねーよ」
まあ、そう思ってたのもついさっきまでなんですけどね。
「大人の言う台詞じゃないよね」
「生徒の交友関係も成績も俺の給料には関係ねーからな」
けだるそうに塩飴を口に放り込む目の前の大人の姿はまさしく駄目人間に相応しい風貌をしている。こんなひとでもひとの親になれるんだから世の中不思議なこともあるもんだ。
「で、何でそれを俺に話したワケ?」
「え?」
一呼吸を置いて言った轟監督がわたしに向き直る。今の今まで死んだ魚みたいだったその瞳が、鋭くわたしを見据えていた。
「教えてやろうか。疲れちまったんだろ、お前は。自分を偽るのに。楽しくねーのに笑って、やりたくもねー勉強やって。ずっと隠して気張ってきたのに、それを他人にぶちまけちまいてーくらい」
「…なんで?」
「一応監督だからな」
まず生徒のこと見てるのが仕事だろーが。
その言葉が鼓膜をたどうと同時に、ずっとわたしの中で張りつめていた線がプツンという音を立てて切れた。そしてぐにゃりと歪んだ視界はゆらゆらと揺れる。止める術の無い涙はぽろぽろと零れて拳の上で跳ねた。
わたし、ずっと、苦しかったよ。何でこんな事してるんだろうって思いながら、楽しくなくても笑って、わたしの人生のどこに役に立つんだろうって思いながら勉強して。
「いい点数取っても全然嬉しくないし、何でみんなこんな作り笑いにも気づかないんだろうって」
「そりゃお前、今まで付き合ってきた友達がバカだったんだろ」
「…はは」
「でも、今の友達はちげえだろ」
「…うん」
「部活のやつらも」
「うん」
轟監督が立ち上がり、大きな手でわたしの頭をポンポンと叩いた。
今まで普通にこなしてきた形が変わっていたことが受け入れられなかっただけだ。信じられなかっただけだ。だって今の仲間はみんな素直で正直で真っ直ぐだったから。
わたしもそうなっていいのかなって。それでいいのかなって。
「いいんだよ、それで。」
そっか、いいんだ。
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