「夏に手繋いでると汗でベチャベチャになって気持ち悪くね?」

 アップルパイから顔を上げる。ついさっきまでマックフルーリーをグチャグチャにかき混ぜるのに夢中だったはずの丸井が、いつの間にか頬杖をついて窓の外を見ていた。空になったカップがぽつんと机のはじに置かれている。食べ終わってしまったらしい。まだ10分も経っていないのに。
 丸井の視線を追ってみたが、手を繋ぎながら歩いているカップルはみつからない。
 丸井は気持ち悪いと言いながら、店内だというのに堂々とコーラをかばんの中から取り出しそのまま一気飲みした。半分ほどあったコーラが一瞬にして飲み込まれていく。やけ酒のようだと思った。

「それ言ってふられたの?」
「ちげーよ。それ言ったら『でも私丸井くんの汗なら飲めるよ』って言われて、ドン引きして『俺は無理だわ』って言ったらふられたの」
「うわあ…」

背筋が涼しくなる。丸井も思い出して背筋が涼しくなったようだ。顔の筋肉が引きつっている。

「それお前彼氏に言われたらどうする」
「引くっていうかそれは誰に言われても引く」
「だよな」
「うん」
「アップルパイ食わないんなら食っていい?」
「だめ」
「傷心を癒せよ」
「ガムならあげるけど」
「食う」

丸井が口を開ける。私は包み紙を開いて丸井の口にガムを投げた。私の手汗がついたガムを美味しそうに食べる丸井。優越感。


090721

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