01 知り合い

その日はとてもいい天気の土曜日だった。友だちのお家の都合でその子と遊べなくなった私はひとりでトボトボと河原を歩いていた。まだ今日は土曜日だ。帰って宿題もしたくないし、公園に行ったら誰かいるかなあと考えていたときに聞こえてきたボンボンという謎の音。なんとなく子ども心に冒険心を感じて高架線を降りたそこに居たのは、ただもくもくと壁に向かってボールを投げてる男の子だった。

「何してるの?」
「…」
「あ、野球?」

私の声に振り向いた男の子が少しだけびっくりした表情をしてからうなづく。学校では見たことないから違う小学校の子かな?と思う。

「ふーん、楽しい?」
「…」

返事が帰ってこなくなって、変なことを聞いちゃったことに気づいた。取り繕うように彼の足元にあったもう一つのグローブを指差す。

「あ、キャッチボールしよ!」

今度は少しびっくりした表情を浮かべた彼が口を開いた。

「…でも、僕の球、きみじゃ取れないよ」
「取れる球投げてくれたらいいでしょ」
「…」
「取れない球投げたくなったら、そっちの壁に投げたらいいよ」

我ながら強引だと思ったが、返事は無かったけど再びこくりと頷いてくれた。男の子から距離をとって、ゆるい球を投げ合う。結局最後まで彼が壁に向かってボールを投げることはなかった。
その日最後にまたね、と言って別れたけれど、それ以来会うことは無かった。何度かあの河川敷に足を運んだことはあったけれど、時間があわないのか会うことは無くてそのままあの場所に行くことも無くなった。名前や小学校くらいは聞けばよかった。そして、そんな後悔も日にちが経つにつれ淡い記憶へと変わっていった。





『ピッチャー、降谷くん』

テレビ画面越しに呼ばれた名前に口を開けたまま硬直する。その日カップラーメンをすすりながら観ていた甲子園大会のマウンドに立つ男の子は、幼さは失われていたけれど間違いなくあの日の男の子だった。薄れていたはずの記憶が一気に蘇ってきて、その鮮明さにめまいがしそうだ。

「ふるやくん…」

のぼせたような声でアナウンスの声をなぞる。ふるやくんの投げたボールがキャッチャーミットへと吸い込まれていく。

…でも、僕の球、きみじゃ取れないよ

あの日の言葉を思い出す。このボールを取れる人を見つけるために、東京まで行ったんだ。直感的にそう思った。最初から大して近くにいたわけでもないのに、あの日キャッチボールをした男の子が居場所をみつけたことがうれしくて、少しだけさびしかった。

160302

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