10 先輩と後輩




「小学生のときは何が何でも毎日通ってたんだよ」

そう唐突に呟いたのは、先ほど3つ目の角砂糖を入れ終えた人物である。
細っこい指につままれた4つ目の角砂糖が、ポチャンという悲鳴を上げて溶けた。そんなに砂糖を入れるんならコーヒーなんて飲まなければいいのにと頭の隅で思いながら、静かに自分のブラックコーヒーへと手を伸ばす。久々に喉を伝ったコーヒーは、思っていたよりもぬるかった。

「中学に上がってからしばらくして、朝自分の上履きの中に死んだ毛虫が入っててね、吐き気がして、すぐUターンした」
「は」
「でも家に帰るわけにも行かなくてね、ずっと町の中歩いてたんだ」
「…1日中すか?」
「1日中。で、しばらくそうやって過ごしてて、学校行ってないこともイジメも親にバレて、倉持の学校に転校〜みたいな」

はははと笑った先輩の指先に焦点を合わせる。白い角砂糖だった。

「先輩、いじめられてたんすか」
「何そのフツーなリアクション」

「笑うべきでしたか」と気いたら「まあ聞いてよ」と返ってきた。まだ先があるのか。ポチャン、5つ目の角砂糖がコーヒーの中にダイヴ。

「それから転校する直前にずっといじめてきてた子達の上履き全員分便器に突っ込んで、見ないフリしてたクラスメイト達の教室を水浸しにして、私の話を聞いてくれなかった先生の顔写真をSMクラブで尻叩かれてる男に合成したのを屋上からばらまいて私の復讐は終わったの」
「ぶはっ」

想像していたより斜め上すぎる最後のエピソードに吹き出してしまったら、唾がかって飲めなくなったじゃないかと例のコーヒーを差し出される。俺は冷や汗を浮かべながら目をそらした。

150903



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