11 教師と生徒
こっち見ろ、こっち見て、こっち見て。昼休み、他のクラスの男の子たちと外でサッカーをしていた沢村先生を友達と教室のベランダから見ていた。わたしは沢村先生に向かってずっとこっち見ろと念じていたけれど、彼の視線は私の念になど気付かずサッカーボールに夢中だ。少しだけうらめしい気持ちを抱えていたわたしの後ろで「あ!」と叫んだ坊主の男の子の声は「栄ちゃんサッカーに浮気かー!」と続いた。
「アホー!お前も来いよー」
「野球バカはサッカー下手だからな」
「なんだとー」
沢村先生と周りの男の子のヤジでクラスメイトはそのままベランダから飛び降りてグラウンドに駆けて行った。ここは一応2階たが誰も咎めない。何を隠そうこの学校で一番初めにベランダから飛び降りたのは沢村先生だ。今日のように休み時間生徒と鬼ごっこをしていたとき、ムキになって生徒を捕まえるためにベランダから飛び降りたの多数の生徒に目撃された。それから他に真似する生徒が出てきて最初は咎められたが、あまりにみんながやりすぎて 怪我したら禁止・靴は洗うというルールが出来た。今の所けが人は出てきてない。
グラウンドに合流したクラスメイトの男の子の背中を見送る。またすぐ再びサッカーが始まるのだろうな、せっかくこちらを向いていた沢村先生も背を向けてボールを追いかけるのだろうなと思っていたが沢村先生の視線はまだこちらに向いたままだ。
「そこの女子3人組もサッカーするかー?」
「えっ」
「遠慮しますー」
「やらないわー!」
「そうかー?」
あまりに唐突な出来事にひとり何も気の利いたことも言えないまま、結局沢村先生は背を向けてサッカーボール向かって走って行ってしまった。
わたしがもし今やりたいって、ベランダから飛び降りるような女の子だったら沢村先生はこっちを見てくれたのかな。なんて、できもしないこと。
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