20 他人
視界の中に居れば自然に目が付く褪せた林檎の絵画のようなその髪色は、俺だけではなく、確かにすれ違う人間の視線を集めていた。華奢な体つきに童顔のそいつは、謙遜してみても高校には見えないし、一番小さいであろう制服もブカブカで子供がコスプレをしているようにも見えた。俺より短いショートカットの髪型も、長い髪をくるくると巻いて似たような女が多い中でとても新鮮だった。
ただ、興味があったのは事実だが、話したことも無ければ目があったこともない。第一、名前も知らないし、クラスだって定かじゃなかった。最後にその髪色を見たのだって三ヶ月前の一学期の終わり、多田野と話していたときだ。そのとき初めて1年生だったことを知ったんだ。
そして、その記憶を最後に、夏休みが終わり、制服が半袖から長袖になっても、探さなくても見つかるはずの彼女を校内で見かけることはなかった。
「辞めたらしいよ」
誰かの噂で聞いたそれは自分にとって衝撃的なものだった。あいつは、夏休みの間に通信制高校に転学していたらしい。他校の彼氏が学校を辞めるのを期に一緒に辞めたとか、そんなありふれた話。すぐに違う話題にすり替わっていたくらい日常に影響のない話。
そして、卒業まで、俺があの髪色を見かけることはなかった。 多少の興味はあったが、恋愛感情を抱いていたわけではない。 ただ、今でも鮮明に思い出せるその髪色は、きっとこれからも俺の記憶から消えない。それだけだ。
150903
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