マイキーと場地の幼馴染ガール

#03:帰宅したら幼馴染に不法侵入されてた



真一郎くんのCB250Tバブが再び風を切ったのは、東の空が白み始めるころだった。
あの後、私が落ち着くのを待って、すっかり伸びきってしまったカップラーメンを二人で不味い不味いと言いつつも完食した。

真一郎くんがいいなら今日はこのままここで寝たい。眠い。真一郎くんの店居心地良すぎる。
……と私の中の悪魔が囁きまくっていたが「送ってく」と言われて仕方なく重い体を引き摺って、真一郎くんの背中にしがみつく。
真一郎くんは私の家の前までバイクを走らせた。
初夏の朝の匂いがする。夏はもうすぐそこだ。

「じゃあな。学校ちゃんと行けよ」
「元暴走族総長に言われたくねー」
「たしかに」

言っといて自分で納得すんな。
最高にくだらねーけど、こんな適当な冗談でも笑えるくらいには私の心が軽くなったのは事実だ。

「早く仲直りしろよ」
「ん」

ぽす、と大きな掌が私の頭を包んで、それからまた「じゃあな」と言って走り去る後ろ姿を見送る。
なんかめちゃくちゃ世話になってしまったけど、話せてよかったな。

私が一方的に怒ってただけだし、私が折れればそれでこの喧嘩は終わりだ。
みんなと一緒にいたいのが本音、意地張って自分から離れてちゃ世話ねーか。
まあもう少し言葉を選んでくれてたら私もここまで怒り心頭にはならなかったかもしれないが、圭ちゃんにその辺の気遣いが出来るわけもねーし、マイキーに至ってはデリカシーのデの字も求めてはいけない人種なのだ。
私がもっと大人にならねばならんのだ。

「……あれ?」

家の鍵が、開いている。
圭ちゃん閉め忘れたな、不用心なやつめ。
ドアの向こうでミケがクンクン鼻を鳴らしている。

「ただいま、ミケ。ごめんな、寂しかったな」

わしゃわしゃと頭を撫でて、あとでミケを連れ帰ってくれたであろう圭ちゃんに礼言わないとなーなんて思う。
一方的に飛び出した手前気まずさもあるが、逆に言えば連絡するキッカケがあって助かる。

ミケは尻尾を振りながら私の部屋のドアをカリカリと前足で掻いた。
不思議に思ってドアを少し開けたところで、誰もいないはずの自分の部屋に人の気配がして思わず身構える。
ママは出張で明日まで帰って来ない。じゃあ誰? ミケが警戒してないから知ってる人だとは思うけど。

音がしないように慎重にドアを開けて中を覗くと、我が家かのように堂々と私のベッドで眠るマイキーがいた。

いや、なんで。

一瞬思考が停止したが、すぐに「まあいいや」と思い直す。
サクッとシャワー浴びれば1、2時間は寝れるかな。流石に完徹で授業受ける気力はない。
朝の散歩は今日だけサボらせてくれ、すまんミケ。

パパッと温めのシャワーで汗を流して、ドライヤーもそこそこに、マイキーを気持ちベッドの端に追いやって隣に潜り込む。
多少狭いが致し方ない。マイキーの寝起きの悪さは嫌というほど知っている。こんな早朝に叩き起こすなんて無理だ。

横になるとまた一気に眠気が襲ってきて、気付いたら随分ぐっすり寝たようだ。
起きたらマイキーに抱き枕にされてたし、余裕で寝過ごしたし、同じクラスの三ツ谷から着信とメールがきてた。
とりあえず「いま起きた」と事実だけ返信しておく。
相変わらず不良と優等生を両立しててすげーな三ツ谷。

二度寝しかけていたところで携帯が鳴って、ディスプレイを開けば「三ツ谷」の文字。
寝っ転がったまま通話ボタンを押すと三ツ谷は「二度寝しようとしてただろ」と開口一番。なんでバレた。

「え、こわ。もしかしてウチに監視カメラでも仕掛けた?」
『バカヤロ、んなわけあるかよ』
「冗談だろ、そんな朝っぱらから怒んなよ」
『11時はもう朝っぱらとは言わねぇだろ。今からでもいいからちゃんと学校来いよな』
「うわ、暴走族に言われたくねーセリフを一日に二回も聞くことになるとは思わなかったわ」

一回目はガチの朝っぱらに聞いたばかりだ。
そう零すと『二回?』と不思議そうな声が返ってくる。

「あー朝まで真一郎くんといたんだけどさ、同じこと言われたわ。ちゃんと学校行けよーって」
『真一郎くん……って、マイキーの兄貴か? は? 朝までって、オマエ今までなにしてたんだよ?』
「なにって……まあ、なりゆきで」
『ハァ?』

眉間に皺を寄せる三ツ谷の顔が目に浮かぶようだ。
まあ妥当な反応だ。けどなりゆきなのは事実なのでどうしようもない。

「学校はちゃんと行くから心配すんなよ、部活には顔出さねーとだし……ん、ちょっと待ってオイてめーどこ触ってんだぶっ殺すぞ」

私の声でマイキーが目を覚ましたのか隣でもぞもぞ動き出す。乳を揉むな。
一つ大きな欠伸をした後、マイキーが私の耳元に顔を寄せた。

「……だれとしゃべってんの」
「三ツ谷。起きたなら放せよ暑苦しいから」

まだ眠そうな顔のマイキーにそう言うと『その声、もしかしてマイキーか?』と問われたので肯定しておく。

『てことは曜はマイキーん家に泊まってんのか?』
「いや、家帰ったらマイキーが私のベッドで寝てた」
『は? ワケわかんねーよ』
「安心しろそれに関しては私もワケわかんねーから」
『安心できる要素一つも見当たらねぇんだけど』

まあ真一郎くんとマイキーといた、という状況からすれば普通そう思うだろう。
全部説明するのは面倒だし、随分端折った自覚はあるが、マイキーがなぜ我が物顔で私の家にいるのかについては私もワケわかんねーという事実しかないのでそう言われてもどうしようもない。

「んー、曜、こんなにおっぱいあったっけ……?」
「成長期なめんな」
『待て待てどういうことだよ理解が追いつかねー』

だから乳を揉むな。

「三ツ谷ァ、曜って何カップか知ってる? オレの見立てではCだと思うんだよな」
『知るかよ!!!!!!!!!』


***


◆曜
帰宅したらなぜか幼馴染にベッドを占領されていた。
仕方ないので普通に一緒に寝た。
学校はちゃんと昼から行った。空手部所属。
背も高いけど胸もあるタイプのようだ。

◆真一郎くん
目の前でめちゃくちゃ泣かれて実は内心死ぬほど焦った。
曜のことはガキのころから見てきたけど、親御さんも留守がちだし、これからもう少し気にかけてやんねーとなぁ。

◆マイキー
曜を泣かせちまった。謝りたくて曜ん家で待ってたらシンイチローのバブの音が近づいてきて、家の前で止まった。
不思議に思って窓から覗いたら兄貴と幼馴染が仲良さそうにしてた。
なんか分かんねーけどめちゃくちゃムカついたので狸寝入りした後、ガチで寝ちゃった。

◆圭ちゃん
曜ん家の合鍵を持っている。ママ公認。

◆三ツ谷
まじでひとつも状況が掴めない。情報過多。怒。




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