甘い誘惑 (1/5)




「……」
「……」

机の上にあった、銀紙に包まれた板チョコ。
それに伸ばされた二人の男女の手が、軽く触れ合った。

「これは私のです。勝手に食べようとしないでください。」
「いいじゃない一つくらい。ケチ。私チョコ大好きなの。」
「知りませんよ。チョコ位自分で買いに行ってください。」
「どうして目の前に大量のチョコ(しかもめちゃくちゃ種類豊富)があるのにわざわざ買いにいかなきゃいけないの。」

男の名はL(仮名)。
またの名を竜崎(仮名)。
女の名は葵(本名)。

二人は、世間を騒がす『キラ事件』の捜査の為にここにいるのだ。

それがなぜ、チョコレートで揉めているのか……
その場にいた(彼ら以外の)全員が呆れた。

「じゃあワタリに買いに行かせます。」
「駄目、ワタリが可哀相。っていうかこれが無くなってから買えばいいじゃん?もったいないから。」
「全部食べますから同じことです。」

手を伸ばしてから、二人は口以外は微動だにしない。

「大体あんた今飴食べてるでしょ。」
「……」

ガリッ ボリッ ゴリッ

「食べ終わりました。」
「……」

チュッパ●ャップスを噛み砕いた竜崎は、彼の強靭な顎を目の当たりにして言葉を失って固まっている葵をじっと睨んだ。




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