「もしもし、銀時さん」
『何。薫さん』

電話越しの彼の声。

「……声聞きたくなっただけ」

あなたの声を聞くだけで、どこか私はほっとする。

「……って言うのがやってみたかっただけ。」
『何それ、銀さんちょっとときめいたのに。』

私はくすくすと笑って、「ごめんね」と謝罪する。

「あのね、外……見てみて。」
『外?』

ちょっとだけ彼の足音が聞こえる。
そしてカラカラと窓だか戸だかを開ける音。

『薫がいるとか?』
「私はいないわ。上、見てみて。」

何となく、彼は言われたとおりに上を向いた様に感じる。

「月と星が、すごくきれいでしょ?」
『……そうだな』

彼が微笑んでいるようで、私も自然と笑顔になる。

『最近は夜に空なんて見上げなくなったしな……昔は毎日のように星を眺めてたな、』
「それに、この頃こんなに星がたくさん出てることなんてなかったもの……」

数え切れないほどの億千もの星。
輝く月。
真夜中だというのに、辺りは月明かりに照らされ、いつもより明るく、視界が晴れている。

「……空って、すごいと思わない?」

私達はそれぞれ違う場所に居るのに、視線を上げれば、同じ景色。
空の表情は、一瞬一瞬すべて違うのに。

「こうやって、手を伸ばすと星に手が届きそうなのに、絶対に届くことはない

。」

私は空に向かって賢明に手を突き上げる。

「そしたら、空は高い位置にあるんだと理解する。」

伸ばした手を、ゆっくりと下ろす。

「人ってすごくちっぽけね、って思うわ。」
『小さな悩みも吹き飛ぶって?』

私は小さく笑みを零す。

「私は違うかな……」
『?』

私はね、銀時。

空を見上げるんじゃない。

海を眺めるんじゃない。

私が辛いとき、苦しいとき

頼りにするのは



あなたの、声







call

(もしもし、)
(届いていますか。)








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