この声が届くなら (1/1)
「雫……っオイ!雫、しっかりしろ!」
視界は一面白くはっきりしない。
既に手足を動かすこともままならず、感覚も次第に遠のいていくのが分かる。
妙に意識だけがしっかりしていて、力無く倒れていた私を抱きかかえて、檜佐木さんが大きな声を上げた。
「っふざけるな!死ぬんじゃねえ!」
私は大丈夫、死にません。
気休めでも何でも良かったから、そう伝えたかった。
しかし声を出そうとも喉が鳴らず、私の口から漏れたのは自分でも笑えるくらいのか細い呼気だけだった。
「雫、雫!」
何度も何度も。
檜佐木さんは私の名前を呼び続けた。
まるでどこか遠くへ行ってしまおうとする私を、必死に繋ぎとめるかのように。
「なあおい、返事くらいしろよ、頼むから、」
―――檜佐木さんの声が、震えていた。
こんな風に彼を苦しめているのは紛れもなく、私。
申し訳なくて、悔しくて、目には涙が溢れてくる。
「……雫……?」
相変わらず動かない体を必死に動かそうとする。
やっぱり動かなかったけれど、その小さな変化に檜佐木さんは動きを止めた。
「 」
ごめんなさい、と。
一言謝ろうとして、また肺から空気が逃げる。
私はついに瞼を下ろし、それと同時にいっぱいに溜まった涙が目尻からつう、と流れ落ちた。
「何だ……何て言った?なあ、」
鮮明だった意識も少しずつふわふわしてきて、ああ、死ぬのかな、なんて冷静に考えている自分がいた。
全身から力が抜けていく。
檜佐木さんの、私を抱きしめる力が強くなった。
ああ、後悔があるとすれば、この人に想いを告げられなかったことか。
それでも檜佐木さんの腕の中で死ねるということは、この上なく幸せなのかも知れない。
心配かけてごめんなさい。
私はあなたの部下で幸せでした。
さよなら。
それが私の意識の最後。
それから深い深い闇の中に引き込まれていくような感覚に襲われて、全て消えた。
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