眠り姫へのプレゼント (1/1)





「いいなー、その隊長の羽織ー……」
「……そんなこと言われてもなァ……」
「何で隊長だけなのー?」
「ボクに文句言うても……」
ずーるーいーーー!!!
「副隊長も副官章つけとるやないの。」
「あれもかっこいいけど、やっぱりあたしは羽織がいいーーー!!!!」
「それってボクがかっこいいってこと?」
「いや、全然。」
「……」
「ねえ、一回でいいから着せてよ。」
「駄目や。これは隊長が着るもん。そんなに着たい言うんやったら、頑張って隊長なり。」
「……無理無理。あたしにはそんな才能も人望もないもん。隊長なんて夢のまた夢だって。」
「……」
「努力とか、そんなのも好きじゃないし。あたしはこのままでいいよ。」
「雫……」
「だって、少なくともこうしてギンと一緒に居られるでしょ?」






ボクは知ってる。
雫が人以上に努力していること。
努力が嫌いだなんて嘘で。
隊長なんか無理だと言った時の雫の笑顔は、少しだけ影があって。
でも、ボクと一緒に居られると笑って言った時の笑顔は本当にキレイで。
ボクは そんなちょっとの変化が、ただ ただ 嬉しかった。

いつの間にか、雫は眠りの中。
気持ちよさそうにすやすやと寝息を立てて。
その顔が愛くるしくて、ボクはちょっとの間雫のことを眺めてた。

寝ている間なら、いいかな。
薄らとそう思い、ボクはすぐさま羽織を脱いで、雫の肩にかけてやった。
小さく首の向きを変えて、居心地のいいところを見つけたように、また深く眠りに落ちていく。
そんな雫の頭を、優しく撫でて、そのまま頬にキスを落とした。

眠っている雫を眺めているうちに、いつしかギンもまどろみはじめた。









眠り姫へのプレゼント








お ま け ★



「う……」
「お?」
「ん……?あれ、」
「おー、起きた?」
「……私寝てた……?」

雫は寝ぼけ眼で、自分の顔を覗き込んで来るギンにそう問い掛ける。
ギンがいつもの笑顔で頷くと、雫は目をこすりながら伸びをした。

「……あれ、羽織、」

あれだけ駄目って言ってたのに、
雫はそう呟いて、肩に掛かっていた白い羽織を手に取る。

「あー、それな、寝ぼけた雫が無理矢理ボクから引き剥がして奪ったんよ。」
「え!?」

なんてことない、日常。




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