そらとわたし (1/1)
「雫ちゃん、」
屋根の上、ある晴れた日。
振り返れば、貴方の姿。
「市丸隊長……」
「またサボって、悪い子やなあ?」
そう言いつつも、彼は雫の横にすとん、と腰を下ろした。
「市丸隊長こそ……」
「ボク?ボクはなあ……」
「市丸隊長ー!」
遠めに、イヅルのギンを探す声が聞こえる。
「ああ、あかん。」
こそり、と隠れながら、ギンはそう小さく零す。
どうやらイヅルが通り過ぎるのを心から望んでいるようで。
駆け回るイヅルを眺めていると、彼は此方に気が付いて、少し声を張った。
「桑折君!うちの隊長、見なかったかい?」
「見てないけど、」
「そう、すまないね。」
そう言って、またイヅルは走り去っていく。
「ああ、おおきに。」
「……いえ。」
ほっと胸を撫で下ろすギンに、雫はふっと笑みを零して、空を見上げる。
「雫ちゃん、何考えてる?」
「……特に何も?」
「じゃあ、いつもここで何してんの?」
「空を、眺めてます。」
その言葉通り、雫は空を見つめている。
ギンも彼女に習って、空を見上げた。
「……何か、見えるん?」
「どうでしょう。」
「何や、何も教えてくれへんのやなあ。」
ギンは困ったように笑って、一つ伸びをした。
「ここまで辿り着くまで……色んなものを、捨ててきました。」
「……」
伏せ目がちに、雫はそれとなく話し出す。
ギンは、ただ静かに耳を傾けた。
「この先、まだまだ増えるんでしょうね……」
「……そう、やなあ……」
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