そらとわたし (1/1)






「雫ちゃん、」

屋根の上、ある晴れた日。
振り返れば、貴方の姿。

「市丸隊長……」
「またサボって、悪い子やなあ?」

そう言いつつも、彼は雫の横にすとん、と腰を下ろした。

「市丸隊長こそ……」
「ボク?ボクはなあ……」
「市丸隊長ー!」

遠めに、イヅルのギンを探す声が聞こえる。

「ああ、あかん。」

こそり、と隠れながら、ギンはそう小さく零す。
どうやらイヅルが通り過ぎるのを心から望んでいるようで。
駆け回るイヅルを眺めていると、彼は此方に気が付いて、少し声を張った。

「桑折君!うちの隊長、見なかったかい?」
「見てないけど、」
「そう、すまないね。」

そう言って、またイヅルは走り去っていく。

「ああ、おおきに。」
「……いえ。」

ほっと胸を撫で下ろすギンに、雫はふっと笑みを零して、空を見上げる。

「雫ちゃん、何考えてる?」
「……特に何も?」
「じゃあ、いつもここで何してんの?」
「空を、眺めてます。」

その言葉通り、雫は空を見つめている。
ギンも彼女に習って、空を見上げた。

「……何か、見えるん?」
「どうでしょう。」
「何や、何も教えてくれへんのやなあ。」

ギンは困ったように笑って、一つ伸びをした。

「ここまで辿り着くまで……色んなものを、捨ててきました。」
「……」

伏せ目がちに、雫はそれとなく話し出す。
ギンは、ただ静かに耳を傾けた。

「この先、まだまだ増えるんでしょうね……」
「……そう、やなあ……」




けれど、私たちは歩みを止めてはならない。

これは自分自身で選んだ道なのだから。





「ごめんなさい、こんな話……」
「ええよ。」
「最近色々ありすぎて、頭の中、ぐちゃぐちゃで……だから、空を見上げるのかもしれません。」




いつもと変わらない景色。

けれど、絶対に同じ空はない。

歩み続ける空。

どこまでも、どこまでも。





「何かを失うことは苦しくて寂しいことや。けど、何かを捨てることの方が、失うよりもずっと苦しいこともある。そうやって流した涙は、必ず人を強くする。」

ギンは、柔らかい笑みを浮かべて、雫の頭を優しく撫でた。

「よう、頑張ったな。」

雫ははっとして、ギンを見つめた。
相変わらず、彼は笑っていたけれど、その笑顔はとても優しくて。
今にも泣き出しそうな顔で、雫は微笑んだ。



迷うことはない

振り返ることもない

ただ前を見据えて

歩き続けよう


そうすればきっと

僕らは光を見つけられる

そうすればきっと

何かを得られるはずだから








そらとわたし
(僕らは何を思って、今日も空を見上げるのだろう)




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