思えば、 (1/1)






あの子と初めて逢うたんは、もう何年前やったか。
子供みたいに無邪気に笑うあの子から、何故か目が離せんようになって、頬杖ついて飽きもせずにずっと眺めとった。
あの子はそんなボクに気が付いて、それからボクにだけ小さく笑いかけてくれた。
その瞬間、全身から毒気が全部吸い取られてしまうような、そんな不思議な感覚に陥って、ボクはまたあの子から目が離せへんようになった。

「市丸さん、」

にこにこ、と効果音が付きそうなくらい可愛らしい笑顔のまんま、ボクの方へ寄ってきて、それから澄んだ声でボクの名前を呼ぶ。
ボクは彼女の名前を知らないのに、なんで彼女はボクの名前を知ってるんやろ、とか、いろんな疑問はあったけど、目の前まで近付いた彼女の笑顔を見上げて、そんなことどうでもよくなるくらい、なんだか幸せな気分になった。

「わたしの顔に、なにかついてますか?」
「うん、ただ可愛らしい子やと思て。」

ボクがそう言うと、彼女は一瞬驚いたような顔をして、それからまた笑うた。
悪も正義も生も死も支配も世界も何もかも、何かどうでもええように思わせてしまうよな、そんな笑顔にボクは魅せられた。
彼女が笑うたびに世界は輝いて、彼女が話すたびに世界は花が咲く。

思えばそんな感覚を、と云うのかも知れない。




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