この泪は嘘の代償 (1/1)






―――彼はよく、嘘を吐いた。



「うそつき、」



主をなくした部屋で一人、私は誰にともなく呟いてみせる。

哀れだと、笑ってよ。



「ずっと一緒にいるって言ったじゃない、」



あなたのあの貼り付けたような笑みが、声が、肌の感触が、ぬくもりが、未だ私の心を支配して離れない。

ねえ、これも嘘だと。

また何時ものようにおどけてみせてよ。



「うそつきうそつきうそつき!」



あいしてるっていったじゃない、

はなさないっていったじゃない、



「離れないでって……そう言ったのは、あなたじゃない……」



つう、と頬を伝った一筋の涙。

ならばこの哀しみさえ嘘に変えてしまおうか。



「連れてってよ、……―――」

「あかんよ、」



呟いた私の頭を優しく撫でて、それから低い声であなたが言った、そんな気がした。

少し淋しそうに笑って、遠ざかる幻が、また私の涙を誘った。



この泪は嘘の代償
空の狭間からあなたへと降り注ぐ眩い光が
私には天に召すための梯子に見えた




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