Sorrow of the Smile (1/1)


































― Sorrow of the Smile ―




早朝、インターホンが数度鳴り響く。
そのゆったりとした音と共に、一護は少し声を張って家の中に呼びかけた。

「おい雫!置いてくぞ!」

もう何分待っただろうか。
何度も何度も、雫を呼ぶ。
けれど、反応はまるでなかった。

「ったく、遅刻したら怒られんの俺なんだからな……」

ボソリと担任のえこ贔屓に対する不満を呟いて、溜息を一つ溢した。
一護はもう一度大声を出すために、深く息を吸い込む。

「雫!いい加減に……」

そう、言いかけた時だ。
ガチャリ、と小さな音を立て、不意に玄関の扉が開いた。

「ごめん、」

出てきたのは、小さく困ったように笑う、雫。

「……おう。」

一護は言葉を失って、ただ一つ声を漏らした。



――― まただ。
時々こいつは、悲しそうに笑う。
理由は聞けない。
聞けばまた、無理をして笑うから。



教室でたつきや織姫たちと楽しそうに談笑する雫を見つめながら、一護は思う。
いつもの眉間のしわを、少しだけ深く刻んで、頬杖をついてぼうっと彼女たちを眺めていたら、横からひょいと現れた二人。

「なーに、見とれてんだよ一護。」
「ケイゴ、水色!」
「井上さん!?それとも桑折さん?有沢は……ないか。」

一護の見つめる先にいた彼女たちを、啓吾も同じように見つめて言った。

「別に見とれてなんか……!」
「桑折さんでしょ。」

一護が啓吾に反論しようとした時。
水色が小声で囁いた。

「桑折さん、可愛いもんね。」

水色に心中を読み取られ、一護は反論の言葉を飲み込んだ。
にこり、と笑う水色。
一護はまた眉間のしわを深くして、一言呟いた。

「そんなんじゃ、ねえよ……」

視界の端でまた笑う、雫の表情を見ていると、何だかとても苦しくなって、一護は無理矢理背を向けた。



いつも、いつも。

あいつは俺のことを良く分かっているのに

俺はあいつのことを何も知らないんじゃないかと、ひどく不安になる

あいつが今どんな気持ちで

あいつはどうして淋しそうに笑っているのかって

分かってやれない俺が誰よりも歯痒くて

だけど、怖くて何も聴けない。

俺じゃ何かが足りないんだと、分かっているから。



ただ俺は、臆病なだけなんだ









Sorrow of the Smile
(ねえ、きみは何を想う?)








一護最近好きだ。




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