不治の病



異世界召喚されました。
そんなばかなと思うでしょ?でも現実。
神殿だという天井が見えないくらい高い建物のなかで、王様だというおいちゃんと、神官長だというおじさまと、あと美形な青年ふたりが説明してくれた。
それによれば。

え、召喚じゃなくて召還?こっちの漢字なんだね。
もともとあったものを呼び戻すってほうね、オーケーオーケ……って、じゃ、私、本来はこっちのひとだったの?
なんで地球にいたの?
それをなんで呼び戻したの?
責任者でてこい。
なに、責任者はここにいない?
ならこの場合誰に文句言えばいいんでしょう?
え、星?星に言え?
それって泣き寝入りしろってこと??
星と語り合うとか、どう考えても私のキャパ超えてるんだけど、ちなみにどうやってするの?
は?全裸で踊って踊り明かして最後は地上に横たわり星と交感?


「誰が大地にへばりついてそんなアホらしい儀式するのよ嫌ですよ私はごめんですよおまえがしろよ!」


という心の宝石箱にそっとしまおうと準備していた想いは流出していた。
もちろん口からしかと言語としてね!
まあ、つまりやっちまったよね!
だって目の前には王子殿下。
超絶美形な銀髪サラサラ薄水色の目を見開き、口元ひくひくしちゃってる。
やべえ、とは思うが、現在の心境はとてもとても他人を慮れる容体ではなくて、私の心に共生するちょっと正直すぎる人格が代打で表出中。
やめられない、とまらない、とめられない、とめる気だってない。
そもそも我が家の家訓は正直に生きることだしね。

世界がかわろうとも両親の教えは娘の胸に生きてるよ。


「無礼だなあ?王子たる私の前で発言を許した覚えはないんだけど。どっから入ったって訊いてんだよ聞いてる?」

「いただいた覚えもないのでその記憶は正しいですよ。礼を失していたとは思いませんけど。聞いてません聞きたくありません」

「ほらそれ。ねえ、王族の前で発言するのは許されてから控え目に、が金科玉条だよ」

「初耳です。ところでそこまで敬わないといけない王族って血筋以外にどんな価値がありますか」

「もう聞いたなら従おうか。高貴な血、全ての尊き者たちのオサ。それ以外に何が必要?ああ、財はこの国に所属しているもの全部我々のもので、私たち王族にはそれほど価値があるよ」

「……」

「なにその眉間にしわ寄せて口角下げて目を細めて"絶望"っていうより、"まるでこいつやっちゃった!"的なものを見る目」

「……」

「いや、目を瞑ったところで余計にいたたまれない表情が噴出してるからね?本当おまえなんなの」

「申し訳ございませんが、先祖代々父母の時代から初対面の相手には名乗るなとの厳しい言い伝えがありまして……」

「歴史浅いよな?」

「時間だけが重みではないです」

「じゃあ言わなければよかったのになんで言ったの」

「その理由を教えるほどあなたとの関係は進展していませんしさせるつもりもありません」

「私だってそうだよ」

「ひとが言ったあとに便乗したって効果ないですよ二番煎じですよ所詮風味と色合いは落ちていますよ」

「すごく、すっごく胸のあたりがもやもやする……!」

「残念ですが、それは病です」

「今朝の診察では健康な成人男性だったんだけど」

「ですが病です。不治の。原因は私に親切でなかったからで、増悪因子は私が気に入らないからです」

「無茶苦茶だな?おまえ魔法使いか?」

「いいえ……とも言わないでおきましょう」

「なんなの、ねえ、ほんとにおまえなんなのすっごいいらつくんだけど」

「ああ初期症状が……!もうすこし持つとは思ってましたが……あ、さらにいま、末期になりました」

「進むの早くない!?初期症状って言ったの5秒くらい前!」

「いいえ、もう手遅れです。あなたが私に心の底から申し訳ないとその腐った性根をむしり掘り己の情熱の焔で焼き払いこれまでの腐敗しきった人生を悔いて悔いて泣きながら大地の中心で叫べば……あるいはなんとかなったかもしれませんが、もう無理絶対無理金輪際無理」

「私の性根と人生の鮮度を判断される情報を与えた覚えがないんだけど」

「そうでしたね。ああ、申し遅れました私、ひとめでバカがわかるものです」

「これはご丁寧に……とか言うと思ってる?違うでしょねえ、そうじゃないでしょ」


(ぷは、のってきた!)


「ああ、えっと、何が?」

「……もういい。もーう、いい。えい」

「衛兵ー!!とか呼ぶつもりなら、やめたほうがいいですよ。忠告します」

「どういう意味?俺を人質にでもするつもり?たかだか魔法使い風情が」

「その魔法使い風情に病という名の呪いをかけられたのは誰なんでしょうか。それと、一人称変わってますよ、殿下」

「やはりか。俺を王子と知ったうえで呪いを!」

「私のせいじゃないです。殿下の心の弱さが招いたのです……人質になんてしませんよ。私はただのかよわい一般人ですしね。ただ、殿下の病が下々に知れたら、どうなるのでしょう」

「なっ」

「怖いですねえ?いままで味方だと思っていたものがいきなり手のひらを返すのです。王位継承権のもと、その光に群がってきた虫どもが弱った王者を見てどうするか……弱い肉は強いものが食っちまえ!ってなりますよね」

「貴様……っ」

「ああ、でも初めはきっと大丈夫です。みなとてもやさしくしてくれますよ。初めはね」

「どこの手のものだ、公爵か!」

「もう既に名乗っていますから名乗りません」

「いままで一文字も名前が出てきていないことくらいわかってるんだよ!」

「どうどう、落ち着いて。医者です。バカが判別できる。しかしバカは死んでも治らないので、まあ、開業しても打つ手はありませんけど」

「……ふざけないでくれる?もう、いい加減腹が立ってきた」

「遅くない?」

「斬る。何がなんでも、斬る」

「えー短気は損気ー!」

「あはは。おまえを斬ってこうむる損害なら全財産差しだしてもいいって思えるんだよ俺は」

「太っ腹ですね」

「御覧のとおり引き締まってるけど」

「遺伝的に考えると、でます」

「なにが」

「言えませんそんなこと。無礼千万斬って捨てるとか言われそうだし」

「もう既にその状態だけどね。ねえ気付いてる?それと言えよ遺伝ってなんなのおい」

「あなたうえから目線で偉そうで鼻につくんだよね別れましょってよく言われません?言ってあげましょうか?タイミング的に手遅れですけど、まあ死ぬ前にひとつくらい懺悔する機会はあげますよ」

「このうえから目線!そしておまえみたいなのと付き合った事実はない!」

「見下ろしてませんよ見下してるんです誤解しないでください。私だって交際申しこみをお受けするつもりはないです。あなたとのお付き合いはお断りします。ごめんなさい」

「いい。もういい喋るな斬る目を瞑れ!……瞑れって!」

「腰ぬけー!」

「斬る」

「何回も聞きました。あれですよね、高いところから飛び降りるとき何度も、いきまーす!って言って結局できなくて泣いて引き下がるタイプですよね。ぼ、ぼくは王子だぞ!怖くなんかないんだ!つってね」

「……」

「あっ、古傷えぐっちゃった?ごめんね」

「……」

「ちょーい、ちょいちょいどこ行くんですか、まだ話は終わってないですよーねえでんかー」

「……」

「……なんですかその鎖」

「……」

「ねえちょっとそういう趣味ですか体の自由を奪って辱めるつもりですか殿下ともあろうものが嗜虐がお好きなんですか腕放してくださいよ、っておいおい待って!いたっ!」

「ふん。大人しくしていればここまでしなかったものを」

「うっわ悪役そのものもセリフ似合いすぎですよ殿下!あと鎖拘束プレイは私ちょっと嗜んでいないっていうかっ……ヘ?」


あ、やりすぎちゃった?って思って焦ったところで、この部屋の扉が開放された。
入ってきたのは、ふたりの男性。

(おおう、美形!って、神殿にいたあのお兄さんたちじゃありませんか!)


「殿下!そ、それは!?」

「なんだおまえたち。入室の許可は与えていない」

「いえ、その、王の命でところで、その方は……」

「王命?ああ。さっき突然現れた変態だ。いや魔法使いだったか……まあいい。神殿の審問にかける。おまえたち、これを連れていけ」

「きゃあああっ、殿下、嫌です!わ、わたくしはこんなっ」

「なんだ、いまさら繕ったって無駄だ。観念しろ」

「殿下……あの」

「あれほど嫌ですとお願いしましたのにっ……殿下が無理やりわたくしをっ」

「は?わたくし?おまえ、何言って……」

「で、殿下、その方は!」

「その女性は、あの……」

「なんだ。この魔法使いがどうした」

「ま、魔法使いなどと……!」

「そのお方は」

「……はあ!?異界から呼び戻された、神殿のヒメミコ!?」


殿下のご尊顔をここまで崩すことができたのは史上初の快挙だったと私は思うのです。

ええと、いきなり世界が変わって混乱しているところ、気分転換に神殿を抜けだし王城に侵入し彷徨いつつ迷って入った王子殿下の部屋で上記遣り取りがあったのがつい10日前。
その後の日々は、ほくほくと幸せに過ごしておりました。

(あー。あのときの殿下の顔まじパないわーうけたわー)

にしてもこの世界って本当娯楽ないよね。
もういい加減騎士団のウォッチング飽きちゃったんだけど、そろそろ城下物色しよっかなーなどと、もうパックスロマーナも驚きの平穏。
生まれはこっちでも地球の日本に飛ばされて、そっとしときゃあいいものを召還なんていって呼び戻したこの世界には心底腹立つ!
ちなみに未来永劫この怒りは継続予定……が、まあ言っても始まらない。
こっちに還ってきたのだっていきなりだったし、できることなら戻りたい。
皆に会いたい、なによりゲームしたい。

でも、戻る方法がちょっと自分には無理っすわ!
ごめんね両親、老後見れなくて!
お姉ちゃんたちいるから、まあ、大丈夫だよね!
そんなわけでこのまま静かに過ごして適当なイケメンを侍らせて、穏やかな余生を迎えようと思う。
いつか王に立つあの王子殿下の笑い話を胸に潜ませて……。

え?脅すのかって?
そんなわけないでしょ。
相手は王子、王族だよ?
いくら神殿のヒメミコだからって畏れ多すぎてやりあうことなんかできないから、季節の折に投下する書面にて思い出を語りつつ胸の内をさらしてみるだけだよ。
そーっと『殿下、あれほしーい!』とかね!

(……ん?影?)


「ヒメミコ。ご機嫌麗しく」

「……ででん、でんっ、ででんっ」

「なにか登場しそうな拍子ですねぇ。やだなあ、そんなに怯えてどうされたんです?」

「ええっと、えっと、こここここは、女性のみしか入れない場所……で、私以外は退出させて、いて……」

「ええ。そうですね。ですからヒメミコ、間違ってもお気に入りの騎士を『大丈夫大丈夫誰も気付きやしないってほらお茶しようよー、んもうきみきゃわいーねぇ!』などと連れこんではいけませんよ」

「(み、見てっ?見張りっ!?)」

「そんなにあたりを見回されても、誰もおりませんよ。誰も……ねぇ」

「ひっ……わ、わわわわたくし、気分が優れませんのでこれにて」

「帰られますか?では、こちらです」

「はいっ?部屋はこの奥です王族域じゃないです!(そっちはあんたの巣窟だろう!)」

「いいえ、こちらですよ?」

「その笑顔贋作だ!」

「失礼ですねえ、今日からあなたの家族となる男に対してそれは酷いです」

「は?」

「心からの微笑みが嘘くさいだなんて。ひとは悦びを得ると自然と顔に浮かぶのです。ああ、ほんっとうに嬉しい」

「……はいぃぃぃ!?」

「あなたにかけられた呪いがとけないのです。あの病……どうやら仰るとおり不治のようで」

「いや、そんな、あれは……」

「寝ても覚めてもあなたを甚振りたくてしかたがありません。バカを治す手立てはないとのことですが、せめてこの愚か者の熱を冷ます薬くらいには……」

「ちょ、手錠ぉぉ!?」

「なってもらうよ」

「ぐっ、ぎゃあああはなせええええ!」

「あー癒されるーさすがヒメミコだねえ」

「ぎゃあああああああ!」


というように連行されたのがついさっき。
で、現在は軟禁……いやもうこれは監禁だ。
監禁されてしまっている。
巫女の衣装として与えられていた白の衣は剥かれて、うすい繻子の下着一枚(しかも上だけ)。
手には華奢な鎖が幾重にも連なる豪奢な手錠。
足にはそれと揃いの、太めの足枷。
鎖ジャラジャラー!なんて、ふざけていられない犯罪臭。

そして。


「さあ、おねだりして」

「ふっ……わあああん!」

「よしよし。つらいね?ここ、あつくて堪らないんでしょ?たっぷり塗りこんであげたからね?安心していいよ。街で偶然出会った魔術師から買いあげた稀代の一品らしいし。解毒剤は買い忘れたけど、まあ、やってるうちに効果は消えるんじゃない?おっと、もうひとつ手抜かりが……これの濃度10倍希釈だって。原液たっぷり注いじゃった。あれだけ注意されたのに……まあうん、死にはしないでしょ」

「ばかあああああああ!」

「ごめんねえ?やっぱりこの病気は死なないと治らないみたいで。ああ芽がこんなに紅く腫れちゃって……痒いでしょ?掻いてあげる」

「ぎゃ……っうっっあああああああああああ!」

「足りない?でもあまり掻くともっと腫れるしな……しょうがないから、撫でて潰してあげるね」

「ひぁッ……っふぅ、っひっ……ッやあ!」

「ほら早く言ったらどう?奥もつらいんでしょ?入れて、グチュグチュに掻き混ぜて、なかのあついのを治してって言いなよ?」

「っ、絶対……い、やっ、だああああ!」

「……くくっ。ねえ、知ってる?正直者はね」

「なっ、なに、あつ、あついっ……そ、それ、なんっ……ッあああああああっ!」

「バカをみるんだよ」


正直に、正直に生きることを説いてくださった地球の両親に告ぐ。
心の声を心のままに正直に嘘偽りなく解き放った結果、娘はひでえ目にあってます。


***王子視点


私に妻ができた。
っていうか妻にしてやった、わりと無理やり。
父である陛下も神官のオサも、それはもう必死にとめようとしていたが、まあそんなことされればされるだけ燃えるというものである。
私の成長に携わってきた彼ららしくない失策だ。

さて。
新婚まっただなか、人生の幸福絶頂にいる私にも悩みがある。
程度?あーまぁ公式の場では一人称を"私"と詐称しなくてはならない煩わしさくらいかな?
そのことに関しては私の財布を民から搾取し潤すためでもあるし、別段なんの意味もないと思って生きていた今生を恙無く過ごすためでもあるし。
ほらよく言うでしょう、小さな努力が成果となって返ってくるって。
そんなわけで必要条件だとも納得しているからいい、それは。
つまり何が言いたいかというと、差したる悩みじゃなくても小さな棘って妙に神経逆撫でるよね、ってことである。


「もっ、さいっ、てぇえええ!」


妻がちっとも懐かない、素直にならない。
この件について、私は楽しいと感じる半面、おもしろくないのだ。
たぶん、指に刺さった荊くらいに。


「なんでっ、笑って、わらって……まさに鬼畜のっ、所業っ、あぐまああああぁ!」


動かすのに15人は必要な寝台の上。
四方から延びる幾重もの細い鎖に、形のよい乳房を絞られた彼女。
挑発的に反り立つ乳首に指が吸い寄せられて、くりっと潰してあげるとこの反応である。
罵られて一層表情筋を笑顔に変換した私にむかって、妻はぶるっと戦慄いた。
あ、ちがう?


「いっちゃったんだ?ふふ、きみは敏感なんだね?いやだいやだと叫んでも、ほら」


右手はくりくり胸の先端を愛で続け、左手でぐちゅりと妻に埋めこんだ塊を取りだした。
懇意にしている店の主人、塔の主に依頼して造らせたもの。
公費をたっぷりつぎこんで。
いいお値段したよ、本当。
そのかわり追加機能が後日付加されるらしいし、メンテナンスも随時されるし損はさせないと塔主が言っていたので高くはない買い物だと思う。


「俺のを象ったオモチャで乱れてしまうんだから。いっちゃったしね?」

「正当な生体に受けた侵襲に対する電気信号反応です私のせいじゃない……って、それっ!」

「んー?ちょっと待ってね?」


取りだすついでに、とろりと粘稠性のあるピンク色をまとわせる。
それを目の端に認識して彼女は身動ぎするんだけど、無駄だよね。


「ふふ、魔術師の媚薬。さっきので最後だと思ったの?ざぁんねん」

「ほんとにな……!しかも気のせいだと思いたいその色の濃さはまさかっ」

「あなたは本当に察しがいい」


そう、こっちは稀代の魔術師にお願いして追加で作ってもらったもの。
用法を守れば、とても安全でいい気持ちになれるだろう薬。

(でもね)


「俺がそのまま使うっていう可能性は考えなかったのかな。彼女も甘い……いや、そうでもないか……」


かすかだが、瓶に凝った塊を発見する。
そう、そうだった。
ちらりと見ただけ。
だけど魔術師に寄り添い、けして踏みこませなかった彼は。


「あちらにも保護者がいたんだった」


はふはふと浅い呼吸を繰り返し、なんとか体を正常な状態に戻そうと奮闘する彼女にくすりと笑む。
協力者といかないまでも、妻に中立な立場の人間がいる。
普通なら消すが。


「よかったね」

「いやよかねーよ!?どこをご覧になってのその思考回路か言ってもらおうかっ!?」

「あ、元気だなぁ。あとヒメミコはお口が悪くておられるね」

「殿下の五感は腐っておる!誰かー!誰かコードブルー!」


時折妻は異界の言葉を話す。
それだってちょっと気に入らない。
作業に集中する振りをして、さらっと聞き流すけど、心に澱は溜まっていく。


「人間性以外にその評価を受けたのは初めてだなぁ。あ、人払いしてあるから悪しからず」

「この国問題が山積みじゃね主に殿下自身と殿下の周囲!」

「いやそこは褒めてあげようよ、死ぬまでに俺の本性を見抜けたんだから」

「過去形って鬼籍のひとってこ、んぁあっ!?」


彼女が言い終わるまでに、また塊を埋めてあげる。
寂しそうに粘液垂らしてひくついていたから。
まあ本当は、私をあげたいんだけれど。


「……強請ってくれないしなぁ」

「こーとーわーるぅぅぅうう!」

「おばかな妻ほど苛めたおして鳴かせたくなるっていうのは本当らしいね」

「その提唱者を呼べ潰すミコの名にかけて!!」

「あなたの気力体力は俺のためだけに使うべきだよ、っと」

「き……っああああああ!!」


ぐりぐりっ。
ねじこんで、引き抜いて、生体にはない突起を彼女の赤く腫れた粒に押しあてる。

(あ、またいっちゃった)

その証拠に、少し抜き挿ししづらくなる。
これが自分だったら堪らないんだろう。
ぬめつくなか、あたたかく震える肉。
キュウッと締めつけて、それを無理に引き攣れさせ、圧しこむ。
想像するだけで、ああもう。


「ここまでしないと受け入れてくれないなんてねー」

「ここまでされているからこそ受け入れ難い……!」

「正直になりなさいと警告はしましたよ?」

「こんのっ、似非、殿下っ」


極力やわらかい表情で応対するが、彼女は罵るばかりだ。
あーおもしろい。


「残念、地位は本物なのでつまり俺も本物の王子」

「人間性は、だからっ、偽物だあんっ!」

「さすが賢しい異界還りのヒメミコです、ご名答」


にっこり微笑んで、思いっきりのやさしさで、もう一度、彼女を潤す。
彼女はなかなか揺らいでくれないし。
少しずつ、少しずつ。
目盛をひとつひとつ追うような慎重さでもってといていく。
異界に馴染んで、この世界になかなか開花しない、私の妻。
私のものになりきらないひと。

(本当、煩わしくって、最高)

さっさと堕ちて堕ちて、私に好き勝手いじられるだけの玩具になればいい。
そうすれば、もっといま以上にかわいがってあげられる。
こんな薬使わずに、直接、はじめからできるのに。
意識を堕として防御ガードを緩めてからじゃないと入れないなんて面倒、普段なら見向きさえしないのに。


「俺も相当に、あなたの呪いに縛られている」

「だからそれは、うそ!」

「呪いではないと?病に侵されているというのも?」

「そうっ、うそ……!私は、なにもっしてないっ」


くちゅくちゅぐちゅぷちゅぎゅちゅにゅちゅ。
手を休めず、妻に尽くしたままの問答は、腕は疲れるけど政務より余程頑張れる。
っていうかもうずっとこうしていたい。

(あ、また収縮した。かわいいなー)


「嘘だったなんて……信じてたのに」

「信じてもらって本当にあのときの殿下はどうかしてたんだとしか言いようがないが嘘なんで!」

「嘘、だったとか。俺は本当に命を狙われたと、思って」

「ノリ、その場のノリとか大気の不安定さが影響した出来心でっ」

「だからこうして……あなたの許しを請おうと思って……」


なんて、調べればすぐにわかったけれど。
でもちょっと一瞬それもあるかなって、興奮したのは本当。
随分昔に王都の端っこに追いやって飼育している親戚が、頑張ってくれたのかと震えたんだよ。
そのがっかり感を埋め合わせしてもらおうと思いつき結婚に至ったとして、私に非はないよね。


「ごめんなさいとか言いたくないけど悪かったとか思ってないけどっ嘘です嘘なんですっっていうか許しを請おうとか思ってないだろうバカ殿下あああああ」

「結局謝ってないし悪いと思ってないし、ついでに罵ってくれるんだね。なんて非道な……」


受けたショックに肺に空気が入るようで、入らない。
肩を揺らす私に、彼女の気配が戸惑うのがわかる。


「えっ、えぇっ、そっ、そんなまさか泣くほどなんて……っ」


なんか聞こえる。
誰が泣けるかこんなことで。
そもそもどこに泣く流れがあった。
勉学でも娯楽でも人間でも動物でも、森羅万象。
こんなに固執できたものはない。
ここまで昂れたこともない。
国の頂点に生まれたから、無難に、さりとて無能でないように振る舞う。
だけど有能すぎるのはまた面倒なことを生むから、適度に。

そうしているうちに丁度いいラインをするすると歩むことが日常になった。
長い歴史もつ我が家に泥を塗ることなく劣ることない次代の石は先まで敷き詰め済み。
やることはやった。
あとは、と考えたところで、人生ゲームが終盤だということに気づく。
あれ?これで終わりなの?と。


「だけど出逢えた」


呼吸苦が治まって落ちついたところで、彼女のご尊顔を拝む。
うん、めちゃくちゃにした……いや大変そそられる。


「んなっ、嘘泣き!?」

「というか、いつ泣きましたかっていう話?」

「腹立つぅぅううう!」

「奇遇ですねえ、私も同じ感情をあなたに抱いたんですよ、つい先日」

「もうすみませんでしたと謝るから!しょうがないから謝ってやるから!それで、どうかそれで水に流そうぜっ、なっ!」

「えー?」

「怒ったからでしょ!?こんな人畜にも悖る所業を思いついてあまつさえ実行に移すなんて労力を惜しまぬ愚行は先日の私がちょっとやらかしちゃった悪戯に狭量な殿下の心が反応しちゃったせいでしょ!?だから謝ってやるってば!それでもう終わりにしましょう!復讐の連鎖は断たねばならぬのですっ」

「さすがヒメミコです。平和を祈るその姿勢、私も見習わねばなりませんね。ちなみに仰っている過日のことですが、正直」

「お、おうよ」


呪いだとしても、呪いなどなくても。
だって、私の感情を動かした。
それだけで理由なんて。


「どうでもいいよ」

「はっ?」


充分じゃないか。


「えっ、ならっ、私がこんな目にあうっ、意味が」

「どうでもいいのでは?」

「よくなっ」

「俺が、どうでもいいって、言ってるの。だからどうでもよくなって」


もう頃合いか。
熟れた果肉が、抵抗を少なくして私を誘う。
体をつつむ衣をゆるめ、本能を彼女の窪みへあてる。
ひくんと妻が私にくちづける。
はやく、って急かされてるみたいだ。
本格的にくつくつ笑いだした私に、彼女は怯えて睨むという器用な真似をしてくれる。

(ああ本当に興味深い。私は、きっと)


「きみがヒメミコだろうが」

「やっ、やめっ、いたっ」


彼女が言うように、私だって痛い。
だから拒まないでほしいのに。

初めて繋がった日に識った、ミコたる所以。
彼女は造られたミコ。
わざとあちらにおくられて、たくさんたくさん、あちらに侵食されて。
すべてこの世界、いや、王家のために。
だから私は彼女を元に戻そうと思う。
彼女だから元に戻そうと思うのか、元に戻したいから彼女に構うのか、正直判別しかねるけれど。

(どれでもいいか)


「その力が俺を阻むなら馴らすだけ」

「やぁっ、めっ」


いちばん直径の嵩ます部分が彼女の肉を巻きこむ。
我慢できる瀬戸際の痛みが私に絡む。


「やがて完全に還るならいまよりもっと」

「む、りっ」


乙女のとおる痛みって、こういう感覚なんだろうか。
その先の快楽きもちよさを知っているから、耐えられないわけでもないけど。


「堕ちきったなら抱きしめて、二度と飛ばないように……どうなっても、放さないから」

「ひっ、うっ、っやだっ」

「素直になって」

「やぁ、だぁっ」

「それで」


ぐちゅん。

(接合、完了)


「俺の愛を受け入れて?」

「のぉおおおおおおおおお!」

「……ああやっぱり癒される。さすがヒメミコ」

「嬉しくないぃぃぃいいい」


***


(あー今日もたっぷり注いだー)

日に日に少しずつだけど彼女のひととしての存在が濃くなるのと反比例し、苛立たしい違和感がうすまっていく。
なんて達成感。
本当、満たされる。
神の言葉なんて伝えなくていい、この世界の平和なんてどうでもいい。
あなたに神々しさとか要らない。
穢れ万歳である。

素直になれるまでいくらだって付き合ってあげるから、もっともっと、堕ちておいで。
あ、もちろん。


「そのさきも放さないからね?俺のヒメミコ。ただひとりのひと」