××××をしないと出られない部屋

 瞼を開くと視界には無機質な白い天井が広がってきた。それは、自宅の天井でもなければ四番隊の療養室の天井でもない。見覚えのない風景だ。上体を起こす。自分は天井と同じような白いベッドに寝かされていた。辺りを見回すと床も、壁も、無機質な白。窓も無く、まるで牢屋のようだとそんな印象を持った。ドアノブをガチャガチャと回す音が聞こえ、そちらに目を向けた。出口らしき扉の近くに一人の男性の姿ある。
「剣八さん……」
 その人はよく知った男性。私の愛おしい人。名前を呼ぶと剣八さんは振り返った。
「……やっと起きたか」
 彼はドアノブから手を離し、こちらへと歩いてくる。私も彼の近くへ行こうと足を動かす。しかし、金属の音と共に私の片足の動きは止まった。足元を確認すると右足に拘束具が付けられ、鎖でベッドに繋がれていた。
「てめぇか……? 俺を此処に閉じ込めやがったのは」
 頭の上から低い怒気を含んだ声が降ってきた。
「……え?」
 見上げると、剣八さんは今まで私に向けた事がない表情をしていた。眉間の皺を深く刻み、目を細め、鋭い目つきで見下ろされる。霊圧も禍々しく震え、重く身体にのしかかってくる。あまりの迫力に思わず全身が緊張した。
「な、何を……」
 どうしてこんなに怒っているのか理由が分からなかった。記憶を辿るが彼がこんなに怒ってしまうような事をした覚えは無い。
「くだらねえ事を考えてねえでさっさと鍵を出せ」
「……くだらない事?」
 私が呟くと、彼は親指で背中を指差した。指先を辿ると、そこは出口がある。扉に何か貼り紙が貼られていた。目を凝らしてそこに書いてある文字を読む。
 ――セックスをしないと出られない部屋
 そこには確かにそう書いてあった。
「こんな部屋どうやって用意したんだ。てめぇ、涅の野郎のところの奴か? 床も壁も扉も斬っても斬っても傷一つ付きやしねえ。そんなに俺とヤりてえのか?」
「ち、違います! 私も何も知らないんです!」
「自分を鎖で繋いで、随分と悪趣味な奴だな」
「私こんな事してません!」
「さっさと此処から出せ。持ってんだろ、鍵」
 私の弁解には聞く耳を持たず、剣八さんは言葉を被せる。
「剣八さん! 私は――」
 彼の名前を呼ぶと勢い良く左肩を掴まれてベッドに押し倒される。
「気安く名前呼ぶんじゃねえよ。そんなに俺を腹立たせたいのか……?」
 低い重低音、地響きのようにそれが身体に伝わり小さく身体が震え始める。それが彼に対する恐怖なのか、自分が置かれている現状への恐怖なのか、分からない。
「私の話聞いて、下さい……」
「お前の話なんざ聞きたくもねえよ。鍵を出せ」
「いっ……!」
 肩を掴まれている手に力が篭る。骨がみしりと音を立てた。痛い。折れてしまいそうだった。更に眉間の皺を深くして私を睨んでいる。その瞳には憎悪、怒りが滲み出ている。
「鍵を出せば殺しやしねぇよ」
「私、本当に何も知らないんです」
「あくまでシラを切るきか……。チッ……」
 彼は舌打ちを打ち、私の死覇装の胸元を掴んで乱した。抵抗するが敵うはずが無く、簡単に肌が露わになる。
「剣八さん! 待って!」
 剣八さんの腕に手を伸ばして止めようと試みるが、簡単に片手で両手首を捉えられる。その手も力が強く、骨がぎしりと音を立てる。
「そんなに俺とヤりてえなら大人しくしてろ」
「剣八さん、話を―――」
「次、俺の名前呼んだら本当に殺すぞ」
 口を掴まれ、言葉を塞がれる。彼は刀を握っていない。それなのに刀を首元に突きつけられている感覚に陥る。
「こんなの嫌です……」
「ハッ……。テメェで用意してそんな事言うのか。それともそう言うのが好きなのか? 淫乱だな、テメェは」
 ここに私達を閉じ込めた人物は本当に彼の言う通り悪趣味だ。何がしたいのか。理由が全く分からない。先程から話が通じない彼はきっと私の記憶が消されてしまっている。いや、もしかしたら私がおかしいのかもしれない。私の記憶が正しい、そんな確証もどこにも無い。
「……っ」
 考えを巡らせていると次第に頭が重くなり、思考が鈍り始める。身体が熱い。呼吸が少し荒くなる。そして、自分の意思には反して下腹部が疼き始める。嫌な推測が頭に浮かぶ。
「チッ……てめぇ、薬まで盛ったのか」
 どうやら彼も同じのようだ。息を荒い。目を覚ました時はなんともなかった。あれから何も口にしていない。彼の言葉からも彼が何も口にしていないのが分かる。遅効性の薬を私達は盛られたようだ。俗に言う媚薬、興奮剤というものだろう。本当に悪趣味だ。私に向ける彼の軽蔑に染まった瞳を見つめながらそう思った。


続......?


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