××××をしないと出られない部屋
僕はその日、いつものメンバーで居酒屋で酒を呑んだ。いつものように日が変わってから解散となった。僕はみんなとは別で少し遠回りして一人で帰ることにした。理由は、満月が綺麗な夜だったから。月を眺めながら歩いていると、背後から何者かの霊圧を感じた。僕は斬魄刀に手を掛けて、振り返った。すると黒い影が視界に広がった。思ったより直ぐ近くにいたソレに気を取られて、反応が遅れてしまった。抜刀しようと右手に力を籠めると頬に何か液体を数滴掛けられた。その瞬間、目が上天し、意識を無理矢理遠くに飛ばされた。この感覚は初めてでは無かった。恐らく、穿点だろう。あんな物に二回も気絶させられる何て実に滑稽だ。僕の最後の記憶はそこで終わり。
次に目を覚ますと視界に白が広がった。重い頭を少しだけ動かして辺りを見渡す。どこを見ても白い。節々が痛む身体を無理矢理起こす。そこで漸く自分は白いベッドに寝かされているのだと知った。
「ん……」
自分では無い別の人の声が聞こえた。女性の声だ。声が聞こえた方に目を向けると、自分の直ぐ横に壁に向かって丸まって寝ている黒い髪の長い女性の姿があった。目を覚ましたのかと思ったが変わらず寝息を立てて眠っていた。
この人も自分と同じような目にあったのだろうか。まあ、そんなこと僕にとってはどうでも良い。早くこんな殺風景で美しく無い部屋から出たい。
犯人は恐らく僕が見た黒い人物で間違い無いだろう。僕を攫って、こんな狭い部屋に一人の女性と閉じ込めた思惑が分からず溜息が出る。もう一度、ベッドで眠っている女性を一瞥して扉へと向かった。
ドアノブに手を掛け、捻る。そして扉を押す。だが、扉は開かない。鍵が掛かっている。
――閉じ込められた?
しかし、ドアノブには鍵穴がある。鍵穴があるという事は此方からも鍵が開けられるという事。この部屋のどこかに鍵があるのだろう。そもそも此方側から“鍵を開かせない部屋”ならば、この鍵穴は必要無い。必死になって鍵を探す姿を見る為のフェイクかもしれないが。
まずはこの鍵を探してみる事とする。扉を壊せばこの部屋から出られそうだが、それはそれで美しく無い。それにまだ特に危険な物も見つけていない。まだ焦る時間ではないだろう。
「……は?」
鍵を探していると犯人からのメッセージだろうそれを見つけた。
――セックスをしないと出られない部屋
テーブルに置いてあった白い厚紙にはそう書いてあった。
なつめの悪戯か?
真っ先になつめの顔が浮かぶが、あれにこんな手の込んだ悪戯が出来るわけがない。
阿近とでも手を組んだか?
いや、それにしてもこんな悪戯だったと言っても笑えないようなものを企てる程、なつめの性根は腐ってはいない。
「………」
背中からじわりと焦りが広がる。一度、状況を整理しようと目線を足元に落とすと、テーブルの下に枚メモが落ちている事に気がついた。手のひらサイズのメモ帳を切り離され、半分に折り畳まれているだろうそれを拾う。メモを広げようとした時に透き通った美しい声が聞こえた。
「弓親さん?」
どうして、気付かなかったんだ。
いや、気付けなかった。
いつも身につけている葵色の紙紐が無かったから。それだけのことで勝手に選択肢から彼女を排除していた。
彼女のように美しい黒髪。彼女に似た背格好。香り、だとは思った。
「優紫さん……」
だが、それが彼女であって欲しく無い。その気持ちもあったからか、犯人が彼女に似た人物を用意したのだと思った。
「……ここは?」
まだ状況を把握出来ていない彼女は辺りを見渡し、目を丸くしていた。彼女も恐らく自分と同じように襲われ、気絶させられ此処に運ばれたのだろう。どこにも怪我がなさそうでほっと胸を撫で下ろし、僕は手に持っていたメモに目を戻した。
「………狂ってる」
彼女に聞こえないように呟く。
そこには、こう書かれていた。
――更木優紫から更木剣八の記憶を無くした。
此処で過ごした記憶は部屋を出た時に失われる。
彼女をどうしようが、君の自由だよ。
続......?