
ミックスベリーがはじけた
・女監督生
・捏造あります
・時間軸は四章後のつもり
ナイトレイブンカレッジに咲いた一輪の花、それがオンボロ寮の監督生ことナマエである。
女の子と見紛うレベルで可愛かったり、うっかり惚れてしまいそうになるほど顔が整っていたり、そんな生徒はいるが悲しいかな、ナイトレイブンカレッジは何処に出しても恥ずかしくない男子校なのである。やたらキラキラしていたりむさくるしかったり胡散臭かったり、まあ世界中から将来有望な魔法士の卵を呼び込んでいるだけあって選り取り見取りの人間だらけだが、男子校なのである。
男同士で恋愛に発展するケースも珍しくはない。そもそも異種族間での恋愛がさして珍しいものではなくなった現代において、性別なんてのはまあまあ些事であると言えた。魂レベルで惹かれ合ってゴールインとかも、あるにはある。
けれどもそれはそれとして。『女の子』というだけで思春期男子は舞い上がった。
だって、女の子。ふわふわしてて柔らかくてなんだか良い匂いがしたりして。笑顔なんてきっと最高に可愛くて、胸が高鳴っちゃうんだろうな。──男子校であるが故に、普段全くと言っていい程女の子と接する機会のない男子たちは、オンボロ寮の監督生が『女の子』であると知って小躍りしたくなったし、一部した者もいた。じっ自分、女の子と話す機会に恵まれちゃうんスかァ!?
有象無象の男子達がオンボロ寮の監督生に対し、色んな幻想を抱いた。実際のところ監督生はふわふわした性格ではなかったし、何だったらその小さな口から放たれる言葉は時にクルーウェル先生の指示棒の一振りより鋭い事もあったので、大抵の幻想は見るも無残に打ち砕かれた。
そんな男子の注目の的である監督生に、なんと彼氏が出来たらしい。一部の男子は唇を噛み締めすぎて血を飲んだ。別に監督生に恋心を抱いていた訳ではなかったが、学園内唯一の女の子を射止めた野郎がいるという事実がもう悔しくて堪らなかったのだ。
一体どこのどいつだと一部男子たちは血眼になって容疑者を探した。抜け駆けしやがって、野郎許せねぇ! 誰も結託はしなかったが、抜け駆け野郎を許さないという意志だけは共通していた。
とはいえ、容疑者はすぐに見つかった。何故なら普段から監督生と一緒に行動することが多いハーツラビュル寮の一年、エース・トラッポラこそが監督生の彼氏だったからである。以前から、あいつら距離近いな、まあ友達なんてそんなもんか? という距離感はしていたが、どうやらこの度そういう関係に落ち着いたようだ。エース・トラッポラ……エース・トラッポラかあ……。友人ポジションから恋人ポジションに昇格した相手に、まさか自分が敵うとは思うまい。そう監督生に対して執着心もなければ、嫉妬心もその場のノリであった男子たちは黙って身を引いた。あーあ、俺も可愛い彼女欲しいなーなんて思いながら。
エースとナマエが付き合うに至ったきっかけは、エースの所属するハーツラビュル寮の寮長であるリドルの一言だ。「君たち、少し距離が近くないかい?」と。エースもナマエも特に意識していなかったので、リドルの言葉には揃って首を傾げた。リドルは呆れたように溜息をついて、いかに仲の良い友人であろうと男と女なのだから多少なりとも節度をもって──と言い聞かせたが、エースは「それじゃあ」と、名案を思い付いたとでも言わんばかりに。
「ナマエ、オレと付き合わねぇ?」
そう言ったのだ。
ナマエは驚いた。エースがまさかそんなことを言うとは思わなかったのだ。けれど、エースといるのは楽しいし、いいかもしれない。そんな考えで「いいね!」とサムズアップしながら告白を受け取った。リドルは頭を押さえていた。
晴れてカレカノになったエースとナマエを、イツメンであるデュースは「よかったな」と素直に祝福をした。デュースは案外純粋なところがあるので、直後にエースに対して盛大なメンチを切りながらワル語録の限りを尽くして「女泣かせたらシメる」と告げた。ちなみにこれは要約であるので、実際には結構な脅し文句が出ていた。優等生を目指している生徒とは思えないワル語録だった。
だがそれらのワル語録はナマエを友人として好いているからこその発言だ。デュースの真剣さが伝わったのか、エースはそれを静かに聞いていたし、「ッッッかってンだろォな!?」という巻き舌をさらに巻いたようなデュースの言葉には「泣かせるわけねーじゃん」と返し、隣で聞いていたナマエはちょっと驚いた。
あれ? もしかしてエースって私のことかなり好きじゃない?
デュースの剣幕を押し返す様な真剣な声色であった為、ナマエはもれなくキュンとした。いやキュンどころかキュンキュンした。元々整った顔立ちをしているエースだが、それが普段よりも三割増しでかっこよく見えたりもした。ナマエは思わぬときめきを隠すため、エースの顔が自分の方を向いた瞬間にグリムのお腹を押し付けた。グリムの毛が口に入った! とエースは叫び、お腹が少ししっとりした! とグリムも叫んだ。そんなやり取りを廊下で行っていたので、三人と一匹がクルーウェル先生に怒られるのも仕方のないことだった。
ある日、放課後見事に暇を持て余したナマエは体育館を訪れた。グリムは「マジフトしたいんだゾ〜」というぼやきを運良く(運悪く?)バルガス先生に聞かれ、そのまま運動場へ連れて行かれたので今はいない。
ツイステッドワンダーランドに名を轟かせる名門校であるらしいナイトレイブンカレッジだが、悲しい事にチンピラの比率が高い。偶然肩がぶつかった、前に並んでいた奴に最後の一つであるデラックスメンチカツサンドを取られた、なんかイライラする──等の理由で軽率に他人へ喧嘩を売る。今日もまた一つ誰かの痣が増えていることだろう。
魔法の使えない非力なオンボロ寮の監督生であるナマエは、そりゃあもうストレス発散のいい的だった。幸いにして女性に優しくあれとか敬意をもてとか、そういう教育が一般常識として根付いているため、ものすごく手酷い暴力を振るわれたことはないが、プライドエベレスト級の生徒が「魔法も使えない癖に名門校に通いやがって」と小さな嫌がらせをしてくることがある。魔法慣れしていないナマエは小さな嫌がらせを大きく感じることもあった。
故に自衛の為に魔法が使えるグリムを傍に置くことは必須であると言える。そもそも二人で一人の生徒という扱いだ。なので本来ならグリムに着いて行くべきだったのだろうが、マジフト大会当日にディスクを額にシュウゥゥゥッ! された思い出のあるナマエは「あ、やめとこ」とグリムを見送ったのだ。超エキサイティン? エキサイトするのはピンボールだけで十分である。
そして向かった先が体育館。何故ならエースがいるから。
「エース、お疲れ。休憩中?」
「うおっ! 監督生!?」
体育館の入口近くにいたエースの肩を叩くと、エースは肩を跳ねさせて驚いた。「何でいん……呼び出し?」と神妙な顔をする。その顔がまあまあ面白かったのでナマエは笑いながら、グリムがバルガス先生に連行されたことを伝えた。エースは納得したように頷く。
「んじゃー、一応部長に話して来るわ。追い出されるとかはないと思うけど、それより……」
「あれぇ? 小エビちゃんじゃん」
ゲェ、という嫌そうな顔をエースは隠そうともしなかった。ゆったりとした動きでナマエの元へやってくるフロイドは「何してんのぉ」とナマエを見下ろしながら問う。どうやらエースの表情は気に留めていないらしい。
「お疲れ様です、フロイド先輩。グリムがマジフト部に行ってるので……エースの応援に来ました」
言いながら、ナマエはバスケ部にはフロイドがいることを忘れていたと内心頭を抱える。フロイドは究極的な気分屋で、大抵の物事が0か100に振り切れている。何をするか分からないし、何をしないかも分からない。気まぐれな性格に加えて暴力的な一面が目立っている為、フロイドを恐れて変な生徒が近寄って来ないという点では、バスケ部はある意味安全であると言えた。
とはいえ、フロイドをコントロールするなどナマエには土台無理な話である。ナマエは彼の片割れであるジェイドでもなければ、幼馴染のアズールでもない。その時受けたい授業なんて当てられるはずがあるか。──ナマエはフロイドにキュッと絞められないように注意しなければならない。どうか機嫌が良くありますようにと願った。楽しいから絞めちゃおとか言い出したら逃げるしかない。
「カニちゃんと小エビちゃん、番になったんだっけぇ? 赤いもの同士でウケんね」
「えーっと……番じゃなくて、その前段階? みたいな感じなんですけど……」
番って夫婦みたいな認識で合っているんだろうか。ナマエはどうしたらフロイドに分かりやすいだろうかと考えるが、そもそも常識がズレていては上手く伝わらないのでは? と首を傾げる。
「付き合ってはいるんですけど、結婚が番になることなら……私もエースも他の人と番になる可能性がある、みたいな……?」
「ふーん、人間ってめんどくせーね。だったら一夫多妻でよくね?」
「私の国では一夫一妻制なので」
ナマエが生まれ育った異世界や別の国の法律までは興味が無いのだろう。フロイドはこの話には飽きたとでも言うように、実際「どうでもいいけど」と前置きをして、「後でミニゲームやるからオレのこと応援してねぇ」と猫なで声で告げてナマエの頭を撫でてから去る。ちなみに撫でたというのはフロイド側からの認識であり、ナマエは頭が取れると本気で危惧した。
「く、首が……っ! ……あ、エースもミニゲーム出るの? マジフトは一緒にしたけど、バスケしてるとこ見るの初めてだから楽しみ」
「あー、うん、ハイハイ、そーね。…………オレもミニゲーム出るから見とけ、ってか全力で応援しろよ!」
「するする!」
エースはぎゅっと眉根を寄せると「精々ボールに当たんなよ!!」と言い残して部長の方へ走っていく。どこぞの三文小説の悪役か何かかというナマエのツッコミは届かなかった。精々って。
ミニゲームとは言え、男子高校生がバスケをする様をナマエは見た事が無かったので、その激しさには圧倒された。ミニゲーム前に行っていた基礎練習でも体育館の端から端を一斉に走ったりしていたので少し驚いたが、試合はその非ではない。何より勢いが違う。身長が高い生徒がコートの中を走り回る度にバッシュが擦れて高い音が鳴り、ダンクが決まった時には思わず「わぁ!」と声を上げてしまう。
ナマエは知る由もなかったが、思春期の真っ只中にある男子達は、女の子が試合に臨んでいる自分を見ているという事実に浮足立っていた。もちろん彼氏持ちだということは知っていたが、少なくともエースより良いところを見せてやろうと思い、特に意味もなくダンクを決めたりしていた。エースはもれなく思春期男子である為、同級生や先輩のそんな心情を察し、ダンクをするには至らない身長に歯噛みをしながら、ボールを奪ったりシュートを決めたりドリブルで相手を躱したり──要はとっても活躍した。ナマエに良いところを見せたいという一心である。
普段のミニゲームよりも明らかに点数が増えた試合が終わり、エースがナマエの元へ行くと「かっこよかったよー!」とナマエは興奮した様子で言う。
「エースってバスケ上手いんだね、知らなかった!」
「まあ、これぐらい普通っていうか?」
「ドリブルでこう……くるって相手躱したやつ! かっこよかった!」
「だろー? 超カッコイイエース君に惚れ直した?」
「した!」
少しからかうつもりで言った言葉を思い切り肯定され、エースは「アッ!? うん、うん〜? ま、まあ……、あー、ソッ、そうだろ〜?」と思い切り動揺しながらなんとか返事をした。後ろから聞こえる「カニちゃんキモ」という声もエースの耳には入らなかった。
「今日はこれで終わりっつってたから、ほら、グリム迎えに行くだろ? 着替えてくるから待ってて」
「ねぇー小エビちゃん、オレは? かっこよかった?」
「フロイド先輩はヤバいなって思いました。アトランティカの悪夢って感じ」
「あ?」
「ナンデモナイデス」
ナマエとフロイドの会話を背に、エースは早歩きで更衣室へ向かう。顔が熱いのは運動のせいだ。
──運動場へ向かう道すがら、何だか口数の少ないエースにナマエは首を傾げた。そうして不思議そうにするナマエにエース自身気づいていたので、意を決して口を開く。
「あのさ、今日フロイド先輩と話してたことあんじゃん? 番がどうとかってやつ」
「あれね。フロイド先輩人魚だからだと思うけど、ちょっと認識ズレてるなぁって思った」
「それオレも思った。……んで、オレもお前も別の奴とそういう関係になる? みたいな……可能性あるって言ってたろ?」
「うん。……あ、別にエースと別れたいとかじゃなくてね?」
「分かってるって。でも、それはそれとして……」
エースは少し口を尖らせ、視線をナマエから逸らしながら言った。
「オレは、ナマエが他の奴と付き合ってんの想像すんのは嫌だけど?」
「えっ……」
「まー、監督生は? そうでもな……、監督生?」
照れ隠しにふざけた口調で話せば、隣を歩いていたナマエがいなくなっている。エースが後ろを振り向くと、ナマエは口元に手を添えながら顔を真っ赤にしていた。
「……エースがそんなこと言うと思ってなかった」
「は、はぁー? オレだって、ナマエが惚れ直したとか言ってくると思わなかったんですけど!? バスケだって褒めちぎってくるしさぁ!」
「だってあれはホントにエースがかっこよかったから! ちゃんと惚れ直したのウソじゃないし!? 大体言い出したのエースじゃん!」
「フッツー冗談だってわかるだろ!? ウソじゃないから照れるっつってんの!」
ただの痴話喧嘩どころか惚気合戦である。廊下を通りがかった生徒達は誰しも「いい加減にしろ」と思ったが、偶然向かい側から歩いてきたトレイン先生は「若いな」と思いながら年頃であると考慮して黙って通り過ぎた。結果としてトレイン先生に通りがかられた二人は黙り込んだ。
しばらくの沈黙の後、揃ってとぼとぼと歩き始める。
「…………エースって私のこと好きだよね」
「…………ナマエに言われたくねぇわ」
『後書き』
突然エー監♀のネタが降ってきたので書きました。エースくん良いキャラしてて好き。
小説内で身体的接触がまるでないな?(距離が近いって描写はあるけど…)と思い、それを友人に話したら「なんで夢小説内でソーシャルディスタンスを考慮してるの?」と言われました。ソーシャルディスタンスは現実だけで充分だと思います。
タイトルはソーシャルディスタンスの友人より。