現実は厳しい


「サンダルフォン、髪の毛をといてもらっていいかな。」
寝癖が酷くて、と寝起きに頼んできた寝間着姿のヨーコに溜め息を吐く。 いつもの事ながら彼女の行動も発言も唐突過ぎてついていける者が少ない。その為極小数に位置するサンダルフォンは伸びなくなって久しいミディアムヘアを値段だけは高い櫛でといてやっていた。部屋にあるドレッサーの前に座るヨーコの絡んだ髪を香油も混ぜてといていく。
サンダルフォンが選ばされた珈琲の香りが配合された女性らしい香油も、もう残りは少ない。
「特異点、香油が切れそうだがまたあの島に寄るのはいつだ。」
香油を買ったのはシェロカルテの店ではない偶然立ち寄った島の街だった。
それがどこのどの位置にある島だったのかはヨーコは覚えていない。その時の店主の顔も、周りに人が多かったのは覚えていてもサンダルフォン以外の人物の顔は記憶にない。
「サンダルフォン、あのね」
「仕方がない、よろず屋に頼んでもらうとしよう。さあ、終わったぞ。朝の珈琲にしよう」
するりと手を握られ立ち上がらされたヨーコにそっと口付けサンダルフォンは微笑みを浮かべる。
「さあ、行こう。君の好みに合わせてブレンドしたんだ。」
「サンダルフォン、」
声を遮るようにまた唇が重ねられる。 ドレッサーの鏡にはヨーコの首から上は映らない。 それは光の屈折のせいか、否か。