厳重警戒





*本人にとってはひどく重要な事だけど他人にとってはさほど重要でもない話。*


冷たい夜。息を吐けば白くなるこの時期に外に出ている少女を連れて来いと雑用を押し付けられたサンダルフォンは彼女の真後ろにいた。
「……寒いから帰ってていいよ。夕食までには帰るから。」
振り向かず空を見つめたまま少女──ヨーコはサンダルフォンに告げた。
やはり彼女はサンダルフォンの事に関しては敏感だ。
「雑用を押し付けられた俺の身にもなれ特異点。」
ヨーコの隣に立ち、持ってきたブランケットを肩にかけてやる。服の上からでもわかるほどに身体は冷えていた。
「……もう構わないで、私ばっかり想ってるだけだよ。」
冷たくも弱々しい声で拒絶を口にされる。今の彼女は目を離したら艇から身を投げそうな不安定さを持っていて、サンダルフォンはいつもより苛立ちを抱えながらヨーコを見下ろし続けた。
「一人だけ澄ましてて随分居心地が良さそうね。」
俯いていた顔を上げてサンダルフォンを睨み付ける。フードの根元を掴まれ引き寄せられると唇が触れ合うか触れ合わないか……とても近い距離で見つめ合う。
「私を弄んで楽しい?」
敵意と、怨みと、嫉妬で濡れた蒼の瞳がサンダルフォンへ狙いを定める。それをものともせずサンダルフォンは笑うだけだ。
「弄ぶ?俺がその気ならば今頃君は首だけだぞ。」
首に添える手はとても優しく。明らかにそんな事をするはずがないのに怒りでいっぱいの彼女はそんな気遣う仕草さえ怒張させる道具にしかならなかった。
「アンタなんか好きにならなきゃよかった。」
根だけは効率主義の彼女がそう言うから手首だけ拘束してやるサンダルフォン。どれだけ毒を吐かれようとも彼女しかわからない穏やかな表情でただ待っているだけだ。
「きもち……悪い。」
その表情に嫌悪を示して離れようとする彼女の手首を容易に離すほどサンダルフォンも甘くはない。焦り始めたヨーコが手を引っ張れどもビクともしなかった。
「やめて、離してよ!」
「やだね。」
明確な反応をしたサンダルフォンの瞳に光はない。ただ目の前の女だけが映っていた。
「ふざけんなっ、私は、貴方のこと独り占めしたいのに!私はアンタだけって決めてるのに、別の女にヘラヘラして、珈琲もいれて、ソイツの力になって!」
「私はただ真っ直ぐに貴方に落ちてきたのに!貴方の概念は私のモノなのに!!どうして他の女の元へ行く貴方がいるの!?」
ヨーコの叫びがサンダルフォンの耳へ入る。口元の笑みが深くなるだけだ。
「俺以外の男へ興味を向けたと、そう解釈していいのだな?」
口は笑っていても、声は酷く低い。それに気付いたヨーコは急速に冷えていく頭と血の気が引いていく感覚と獣に対する恐怖で動けないでいた。
「君を縛るのも、君の存在を知るのも俺だけで良いと言うのに。」
くすくすと笑うサンダルフォンが、ヨーコを引っ張って抱き上げた。思わず肩に自由になった手を置いて彼を見つめる。心底楽しそうな笑みを浮かべていてその異常さに怯えることしかヨーコにはできない。
「俺を愛するとはそういう事だよ特異点いや、ヨーコ?」
笑みのまま口にされた名前は、彼女の存在を示す物で。
「サン──」
「俺に真名を簡単に教えて、失敗だったな?」
首を傾げつつ見つめ合う。ヨーコの太股に回っている手が、厭らしく這う。
「今日の君は饒舌過ぎた。」
身の危険を感じてもこの状況で腕を離されたら怪我をしてしまう為動けない。逃げ場のない恐怖に怯えながらもサンダルフォンの瞳から視線を外さないでいた。
「二度と君は離れられないよ。俺がそう望んだからね。」
「クズ男……。」
「フフ、今日の君は随分居心地が悪そうだ。」
わざと同じ言葉を使って責め立てる。
「俺は最初に言っただろう?「必要ない」ってね。それでもと与えたのは君だ。」
屈託のない笑みを浮かべた、サンダルフォンが
「もう、我慢などしなくていいんだろう?」
噛み付くように少女へキスをした







※ジータやグランくんに嫉妬するラスボス主とずっと我慢してたサンダルフォン※