普通には程遠い




※サンダルフォンがヘラってるってか女々しい




高いヒールの音が深夜の廊下を彷徨いている。
右と左。ずっとうろうろしてて寝ようと思えど眠れない。こんな靴の音、誰だかわかりきっている。女性だとしても迎え入れるだけだ。蝋燭を消して、本を閉じる。
月明かりに照らされているだけの窓辺のベッドではただ一人、少女がネグリジェ姿で寝そべっている。扉の前にいる人物は依然として部屋に入ってくる様子はない。溜め息をついてシーツを被った次の瞬間、荒々しく自室の扉が開け放たれた。
「なっ、何!?」
後ろ手で鍵を閉めて入ってきたのは共に旅をし友好を深めているサンダルフォンだった。
ヨーコとの関係はただの共闘関係から変わりつつあり口付けとは行かないものの互いに好意を伝え合う仲ではあった。
真面目で、皮肉屋。それでいて優しい。そうヨーコの瞳に映っていたサンダルフォンは様子がおかしい。部屋に入ってから一度も、いや、年端のいかぬ少女の元にやって来る事自体が怪しい。咄嗟に起き上がったが瞬時に押し戻され、ベッドになだれ込んだ。
「サン……ダルフォン……?」
何かを呟きながらネグリジェ越しにヨーコの肌の上を滑るサンダルフォンの指。左手で一纏めにされた腕をなんとか動かし藻掻く。サンダルフォンは右手を止めること無く、あっという間に下着まで辿り着いた。腹の上に馬乗りになっている相手を退かそうと必死に足を動かしたがそれも呆気なく。サンダルフォンが下着に手をかけたその時
「やめろっつってんだろ!」
ヨーコからの頭突きで一瞬意識が遠のいたのか後ろへ倒れたサンダルフォンから抜け出し距離を置いた。
「何やってんだよ…………。」
素が出てしまった自分への戒めも込めてそう零す。ゆっくりと起き上がったサンダルフォンがこちらに視線を向けた。
「……ねえ、ちょっと落ち着いて。」
距離をそのままに手を出して静止の合図をする。サンダルフォンはこちらに伸ばそうとした手をゆっくり下ろした。
「……なんで、急に?」
俯いたまま答えない。沈黙が訪れるがすぐさまヨーコが断ち切った。
「…………説明してやる。」
サンダルフォンの思考など明け透けで手を取るようにわかった。だからこそヨーコはベッドに腰掛け、座り込んでいる彼の手を優しく包んだ。
「大方、取り残される恐怖でも感じたんだろう。」
その言葉にコクリと頷いている姿を見て微笑むことは無く真摯に見つめた。
「俺の目を見ろ。今から言うことをよく聞け。」
本当は女の子らしい清楚な姿で居たかった。けれど今のこの状況では、そうなる事もできない。こちらを見つめたサンダルフォンに頷いてから諭す。
「一人になんかさせない、これは絶対に守る。たとえ私は死んでも、子を残すから。その子をずっと見守って欲しい。」
握る手に力を込める。
「サンダルフォン、私の身体はまだまだ子供なの。……やりたい事も、救いたいものも、沢山沢山ある。……万全じゃない態勢で戦いが始まれば……どうなる?」
「……敗北する。」
「正解。……今の私の身体はそういう事。子を成すには余りにも早くて、不十分で、最悪二人共しんでしまう。命を繋ぐというのは……戦いよりもリスクが高く同時に責任も負う。生まれてきたその子を、一人前の人にする為にも今はできない。」
サンダルフォンの頬に手を添えて額にキスを落とした。
「確かに、避妊もすれば肉体的な快楽は得られるかもしれない。交わって、交わりきって、一つになりたい。けれど私と身体の関係を持つということはね禁忌に足を踏み入れる事になる。……それは私が嫌なの。
貴方に我慢をさせてしまうかもしれない、不満を癒してあげられないかもしれない。今は、今はまだ身体を渡せないから貴方は何処かで壊れてしまうかもしれない。……それでも私は、貴方と共に歩みたいと思っているし……もちろん私の魂も心も体も全部その時が来たら貴方にあげる。」

これで満足……してくれないかな。

トドメの言葉に目を大きく開いて静かにヨーコの手に擦り寄った。
「俺で……いいのか。」
「貴方しか居ないよ。……さあ、もう寝よう、明日起きてまたご飯を食べて、依頼をこなして……普通の一日を迎えよう。」
サンダルフォンの頭を胸に押さえつけシーツを被る。横になってからしばらく動いていた彼が大人しくなり弱々しく背に手を回してきたのでゆっくりとされど強くヨーコは抱き締めた。
「おやすみ、………私のサンダルフォン。」