親愛のチョコレート







賑やかな食堂に高い踵の音が響く。紅蓮の鎧を身につけている女の隣に居た金髪碧眼女が、人を避けるように端に座るルシオの机に丁寧に包装された箱を叩き付ける。
「どうぞ。尤も、これじゃグチャグチャで食べれないでしょう?」
最上級の嫌味を込めた笑顔とその背後で苦笑いするゼタ。困惑するルシオ。
煩かった食堂が静まり、セシルとルシオに視線が集まる。
「よろしいのですか!貴方が手ずから作ったチョコレートを貰えるだなんて!」
変形していない箱をその場で開封し、先程まで食べていた朝食に目もくれずチョコレート───ドーナツ型のクリスピーガトーショコラを口にした。必死に口を動かして食べるルシオに呆れながらセシルが正面の席に腰掛ける。足を組んで頬杖をつきながら必死にチョコレートに食らいつく獣を見つめていた。
「はふはふれほいひいれふ!」
「わかりましたから全て食べてから言いなさい!そんなに言うのなら来年も差し上げますから!!」
はしたないと叱られたルシオが喉を鳴らして最後のガトーショコラを飲み込む。キラキラと瞳を輝かせた。真っ直ぐにセシルを見つめる瞳は無垢な物だった。
「ご馳走様でした!美味しかったです。」
「はいはい。……ん、ついてますよ。」
口の端についたガトーショコラを摘み、口に放り込むセシル。
「……甘過ぎませんでしたか?紅茶に合わせるにはもう少し控えめの方が…………ルシオ??」
一人でブツブツと言っていたセシルが顔を上げルシオを見ると頬を染め、目を見開きながら固まっている。首を傾げつつ不思議そうにしているとルシオが叫びながら食堂を飛び出して行った。
「セシルの馬鹿ァッ!!素敵!!大好きです!あいしてます!!!」
ルシオが出ていった食堂の入口を見てセシルは更に首を傾げた。
「……ねぇ、わざとでしょ?」
苦笑しながら近寄ってきたゼタに甘く微笑み肩に置かれた手とは逆の手を取り甲に口付けた。
「私は貴方のモノだもの。……私から手作りの料理を食べれるだけ良いと思ってもらわなくちゃ。」
「はぁ……恐ろしいというかなんというか。」
呆れてもう何も言わないゼタが近くに置いていた食事をもって来て向かいに座る。
「貴方のモノだから私はあの人の手には落ちない。けれど彼がきちんと私の所に堕ちてきたら────もう少し優しくしてあげても、いいかしら。」
ルシオが残した食事を丁寧に食べながらセシルはゼタに微笑んだ。

「美味しいね、ゼタ。」