救済のチョコレート




※堕天前

「ルシフェル、ここに居たんだ!」
研究所でサンダルフォンの待つ中庭へ足を向けていたルシフェルにマスティマが声を掛けた。銀の短い髪と青い瞳。ルシファーの直属であったベリアルとは真逆の美しい容姿で言い付けられて居たのだろう、健気に裸足で研究所内を歩き回りルシフェルを探し回っていたようなのだ。
「靴はどうした?友に与えられていた物はないのか?」
「ううん、ルシファー様が裸足で居ろって。」
ルシフェルの問いに首を振って当然のように答えた姿に顔を顰め咎めようとした時
「そんなことより、これっ!!」
マスティマが差し出した小さな袋が、二つ。入口を止めるリボンが蒼と紅で分かれており、その袋をルシフェルに握らせた。
「蒼いのが、ルシフェル。紅いのがサンダルフォン!」
満面の笑みで渡された袋はひんやりとしていてルシフェルはその感覚に首を傾げた
「これは……。」
「今日はねぇ、空の民がねぇ、バレンタインデーっていう甘いお菓子を贈る日だって!」
だからあげる!と純粋無垢な瞳がルシフェルを見つめる。
「サンダルフォン、元気出してって伝えて!私は喧嘩しちゃったから……直接渡せないの……。」
「わかった。私から伝えておこう。」
俯くマスティマの肩に手を置いてルシフェルはサンダルフォンにしか向けないような微笑みを浮かべた。
「ほんと!?ルシフェル大好き!!」
抱きつかれると共に来る心の底からの愛の言葉。
それはルシフェルの渇いた心に潤いを齎し、彼女もまた安寧と再認識させる。
「これからもサンダルフォンをよろしく頼むよ。」
「うん!じゃあバイバイ、ルシフェル!また来たら、皆でお話しようね!」
頷いて裸足のまま走り去る彼女を見つめたルシフェルは微笑みを消し、中庭へ急いだ。

ルシフェルの心を救い、癒せるのはサンダルフォンの他に、彼女しか存在しない。