敬愛のチョコレート




※堕天前※


「ルシファー!」
他の星の民と話していたルシファーに後ろから抱きつこうとすれば彼の持つ杖の鋭利な先を喉仏に添えられる。その表情は難しくマスティマには到底理解ができなかった。
「ルシファー?これ、頑張って作ったの、…………研究で忙しいでしょ?これで少しは空腹が……。」
「黙れ不要品。」
差し出された、とても高価そうに見える金の彩色がされた箱。それを見ること無くルシファーはマスティマの頬を叩いた。その拍子に尻もちをつき、箱が飛んでしまう。
「俺は研究で忙しい。邪魔をするな。」
他の星の民を連れて去っていったルシファーの背を見ながら熱を持っていく頬に冷たい手を添える。
「大丈夫かよ姐サン。」
呆然としているといつの間にか弟分のベリアルがマスティマに手を差し伸べていたのだ。その手を取り立ち上がらせてもらい箱が開くほど激しく飛ばされてしまったんだろうそこにチョコレートが散らばっていた。
ベリアルもあーあと零してチョコレートを摘み上げている。
「ご……めん…………また、迷惑……。」
「良いって。姐サンがファーさんに夢中なのは知ってるしまあ今のは機嫌が悪かったんだよ、きっとな。」
共に作ったチョコレートを口に入れて味を褒めるベリアル。普通の笑顔で言ってくれた為に本心だろうとマスティマも笑う。
「そうかな……もっと美味しそうにしたらよかったのかなぁ?」
ベリアルの隣に座り込んで落ちたチョコレートを、一つ。味も、硬さも悪くない。つまりは包装が悪かったということになる。能天気なマスティマの頭を撫でてベリアルは箱を丁寧に渡す。
「ううん…………もうちょっと甘さを控えめに?」
「ファーさんは甘いほうが好きだよ。」
「そう?じゃあこのままでいいね!」
最後に残った、三つ目のハートのチョコレートを箱の中央にある仕切りの中に入れて慎重に閉じた。そしてベリアルと手を繋いで立ち上がる。
「新しいの作っていい?」
「ハハ、いいぜ姐サン。俺達でファーさんを驚かせてやろう。」
元気良く頷いた二人の後ろ姿を嫉妬に溺れた表情で見る蛇など、気付かれるはずもなかった。