芥川龍之介の死を知った萩原朔太郎



 七月二十五日、自分は湯ヶ島温泉の落合樓に滯在してゐた。朝飯の膳に向つた時、女中がさりげない風でたづねた。
「小説家の芥川といふ人を知つてゐますか?」
「うん、知つてる。それがどうした?」
「自殺しました。」
「なに?」
 自分は吃驚して問ひかへした。自殺? 芥川龍之介が? あり得べからざることだ。だが不思議に、どこかこの報傳の根柢には、否定し得ない確實性があるやうに思はれた。自分はさらに女中に命じて、念のために新聞を取り寄せさせた。けれども新聞を見る迄もなく、ある本能の異常な直覺が、變事の疑ひ得ないことを斷定させた。

引用:青空文庫 より『芥川龍之介の死』萩原朔太郎