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朝だ。いや、夜か?
カーテンの隙間からは朝日ではなく、夜と朝の変わり目の湿った寒色が流れ込んでいた。


「んん、なに、」


君の細い腰を捕まえる。肉感と体温が同時に感覚器官を揺さぶり、俺の血液が一気に下半身に集まる。


「ちょっと」
「んー?」
「いたいよ」
「なにが」
「おしりにあたってるそれ」
「それってなに」
「押しつけすぎ」
「なんやろ、分からんなあ」
「……もう、さむいって、」


君のおなかの中心で組んでいた手をスウェットの中に潜り込ませ、無防備な膨らみに触れる。
起きても起きなくてもどっちでもいい。上と下で違う刺激を感じられたのであれば、どうせ君は目を覚ましてしまうはずだ。


「ねえ、まだ五時。あとちょっと寝られるんだから寝させて」
「うん、そうさせたげたいんやけどさ」
「なに」
「なんかあかんわ今日」


俺の両膝は、いつのまにか君にまたがり骨盤あたりで固唾を飲んでいる。
朝靄の中でも分かる二つの桃の蕾を味わっていると、「こうへい」と半分寝た状態の声で名前を呼ばれた。


「ただの朝勃ちでしょ?」
「うん、そやねんけどなんか止まらん」
「ふ、二十代じゃあるまいし」
「あ、今わらったな?」
「わらってない」
「わらったな?」
「わらってません」


小鳥が朝を告げる。もうすぐ日が昇る。そんなさわやかな一日の始まりは、愛する人とのセックスから始めるに限る。


「寝おきだよ」
「俺もやで」
「やだもう、いつもよりブッサイクなのに」
「ブサイクでもええよ」
「うそでもかわいいって言えよ」


俺が君の下着に手をかけると、君は悪態をつきながら腰を浮かせた。
さむい、と膝を閉じようとする君の脚を無理やり開く。中指に絡みつくそれは、いつもよりやや控えめだ。


「いれるよ」
「え、はいるかな」
「……痛い?」
「いっ、!」


二日前とは違う圧迫感が俺の脳を焼く。
君が痛みに耐えている声色や、薄く光が入った部屋に浮かぶ胸の輪郭や、何より僕の下で従順に卑しい欲を受け入れようとするその姿が、俺の喉をくすぐった。


「痛そう」
「うん、ちょっとだけ」
「かわい」
「……使うとこ間違ってない?」
「そうかも」
「あっ、もうきゅうにうごかないでっ」


君の規則的な声は、脳の中で弾けては広がり俺の中にシミを作った。徐々に声をゆがませる君に、俺の活塞は速くなるばかり。


「もうちょいしずかに喘がんと。まわりに聞こえてまうで」
「じゃあっ、もっと、やさしくしてよっ」
「うん。やさしくするから、ちょっと我慢して」


君の腰が反り上がり、声が跳ねる。いつのまにか君の表情や瞳のうるみ方まで分かってしまうくらい明るくなっていて、俺も声を抑えられなくなっていた。
高揚と絶頂を同時に掴んだ俺たちは、汗と毛布と甘い幸福に包まれながら外の空気を感じ取った。


「あ、もうこんな時間」
「え?」
「用意しなきゃ」


俺の腕からするりと抜けた君は、一つ薄い衣を纏って洗面台へ向かった。テレビをつけ、カーテンを開け、昨日と同じ朝がやって来る。


「なー」
「んー?」
「もうちょっとおってや」
「何言ってんの、遅刻しちゃうじゃん」
「えーーーーーーーー」
「えーじゃない」
「事が済んだらすぐ出て行くなんて、悲しい」
「あんたが誘ってきたんでしょうが」


出社の準備をする君の背中には、天使の羽が生えている。
キッチン、メイク台、もう一度洗面台、顔やヘアスタイルがどんどん変わって、仕事モードの君がベッドルームまでやって来た。


「出したばっかなのに欲求不満そうな顔してる」
「性欲は満たされたけど違う欲が満たされてない」
「何の欲?」
「……今日仕事休んで?」
「何バカなこと言ってんの」


君はいつも通勤で使っているロンシャンのバッグを右肩にかけ、玄関まで向かう。弛んだ首元のスウェットはベッドの下に置いたまま、ズボンだけ穿いて俺も玄関まで着いていく。
ローファーを履いた君が振り向くと、朝露に濡れた若葉が弾けた香りがした。


「今日何時に帰ってくるん?」
「頑張って十九時半」
「……わかった」
「いい子で待っててね」
「はい」
「上の服着なさい」
「はい」


君の前ではなぜ、こんなにも弱さやどうしようもない部分を見せられるんだろう。
玄関の扉が開くと、キリッとした冷えた空気が俺の素肌を撫ぜる。扉が閉じる音が聞こえると、柔らかい体温と左の頬を染めるふっくらとした感触を感じた。


「行ってきます」


部屋に一人になってしばらく立ちすくんだあと、寒いことも忘れて洗面台へ立った。左頬には、薄い血の色を帯びた君の記憶。
こんな満ち足りた朝を日常だと思わせてくれる君の存在を、俺の知っている限りの言葉で表したい。俺の頬も唇も、まぶたも喉も胸もぜんぶ、君の選んだ色で染めてほしい。だから季節とコートを衣替えしたら、一緒に新しいリップを買いに行こう。






















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