ぴむぎケーキバースです。ちなみにむぎが【フォーク】でしょぴくんが【ケーキ】
ナチュラルな学パロで進行されますがちょっとばかしえっち〜な場面もあったりなかったりあったりします。
ぴむぎ同年代設定なのでちょろっとしょっぴ君が「むぎ」と呼び捨てにするシーンがあります。完全私の趣味。
あとケーキバースなので勿論のことなんかカニバリズム…っぽい描写もでるかもしれません。あったりなかったり。グロはないです。血はちょっとでます。
ハッピーエンド…ではあるんですけど、ちょっと不穏です。まあちょっとだけ。
またフォロワーさんの自己投影の存在を示唆するような文面がございます。
CPの示唆や名前は出てきませんが「いやかも!」って方はご遠慮ください。
■
ビー玉はきらきらしててきれいだから、きっとビー玉もおいしいんじゃないか、と考えたことはあるだろうか。 私はない。
幼少期の話になるが、私はなんでもかんでも口に入れてしまうぽんぽこな女の子だったらしい。マグネット等を飲み込んで病院送りになったこともまあある。それは仕方がない。でもビー玉は誤って飲んだことはないので、そこはご了承。
ところで。
ビー玉も飴玉も大差ないんじゃないかなあ、と考え始めたのはごく最近のことである。違うのは硬さだけで、もし飴に味が無くなった場合、それってビー玉をずっと舐めてるのと変わりないんじゃないんだろうか。いやむしろビー玉のほうが溶けないからお得なのでは!?と。
そう考えながらはむ、と買った菓子パンを口に入れる。ふわふわとした食感にパンの味を思い出しながら柔らかなそれを噛みしめた。
「むぎ、最近パンだね」
「うん〜…。ご飯…は、最近気分じゃないから」
「そういう割になんかあんまり美味しくなさそう…」
お昼休みは用事が無ければ同じクラスの友達とご飯を食べていた。目の前で風呂敷を広げてたこさんウインナーを食べる友達。半年ずっと一緒に食べていれば、彼女は私の食べるお昼ご飯の系統なんてわかりきっていることだし、美味しいものを食べれば私がひっきりなしに「おいしい」ということだってわかりきっている。
彼女は私の異変に気が付いていた。
「最近ショッピくんとも一緒にいるとこあんまり見かけないし…」
「しょっ…ぴくんは、関係あるかなァ…」
「ある〜!あります絶対にある!!どうしたの!?もしかしてダイエットとかしてる…?」
これ以上体重少なくなったらむぎ皮と骨だけになっちゃうよ…。と心配そうにこちらをみる友人だけれども、それはない。私にはちゃんと脂肪がついている。
「…それブーメランなんだけどな…。お前がもっと太れ。はい」
「食べかけはいらないよ!?というかむぎもう食べないの…?昨日もお昼そんなに食べてないのに…」
「はいはいブーメランね…」
「も〜〜!」
そっと名前が出たことをスルーしつつ、食べかけのパンをプラスチックの包装で包んでからまたビニールに入れて、カバンにつっこんだ。つぶれてしまうだろうか。でも結局捨てるからな。勿体ない、罰当たり。…帰ったらちゃんと食べよう。
今ご飯を食べてると否が応でも顔をしかめてしまいそうだった。
目の前の友人が嫌いなんてことは万が一にもなく、やっぱりというか、自分が原因で。それに、しょっぴ君も、一割ほど。
唇を舌でなぞりながら皮を歯で破く。出てきた血を舐めればぴり、とした痛みを感じて、血の味すらもしなかった。
■
一週間ほど前、から。
味がしなくなった。
食べてたご飯がすべて不味い。不味いというよりも味がしないだけなんだけど、なんというか、きつい。
晩御飯に、白米、みそ汁、たまご焼きに、つぼ漬け、それから野菜炒めが出たとしよう。一口ずつ、食す。お米の味は無くもちもちとした食感だけ。お味噌汁も液体をすする行為になり、好きだった卵焼きは無味無臭。甘い卵の香りもそこにかけた醤油との風味も、舌に触れるのはただの温かさとふわふわした食感のみ。もうご飯もの中だったら一番好きだったであろうつぼ漬けすらもぽりぽりという食感のみでまるでプラスチックでも噛んでるみたい。野菜炒めはもう食べる気すら起きなかった。
家族の前ではなんとか食べてごまかしているもののお昼は食べたくないので残してしまっている。顔に出てしまう自分の性格をこれほど恨んだことはなく、もう十階以上は親に「ご飯美味しくない?」「食欲ないの?」「体調悪い?」と聞かれてしまっているし、ついには友人にまで食を心配されてしまった。あの、食の細い友人にまで。
世間様に騒がれる、猟奇殺人。ニュースの中の人。極悪犯には見えなさそうな人間ですら犯罪に手を染める。 『フォーク』とはそういう者だった。少なくとも、世間にとっては。
特徴は、味覚が無くなること。大抵のフォークは後天性である。
でも彼らフォークだって別に無差別殺人をしているわけじゃない。
味がする人間を、選んで食べている。それが『ケーキ』と呼ばれる種族。ケーキはフォークにしかわからない甘い香りを出す。フォークにとって唯一味を感じられる食糧。だから狙われる。普通の人間には匂いすらわからない。だから犯罪が減らない。
私だってもしもケーキだったら、とかは考えたことがあった。ケーキはケーキであることの自覚を持たない。まあでもそれだったらとっくの昔に誘拐なりなんなりされていただろうけど。
しかし、しかし、だけども、だって。
まさか自分が唐突にフォークになるだなんて、思いもしなかった。
そして自分がフォークだと理解したすぐに、しょっぴ君、が、…ケーキだなんて、思わないじゃん。思いたくもない。
違うクラスで、同い年。でも女の子とか年上年下同年代でも関係無く、大体の人に敬語を使う礼儀正しい男の子。仲は悪くない。むしろきっと良好なほうだったと思われる。緩やかな友好、少しの距離と他愛もない関係。 私の、密かな小さい実。心のうちに大事に大事にしてきた果実。
それが、捕食者と獲物の関係に真っ逆さま。
フォークだと理解したその日の朝、彼を遠目で見た。校内の下駄箱で靴を履き替えている真っ最中だった。 それだけで、それ、だけで。
わかってしまった。わかってしまった。
『あれ』は獲物だ。食べるべき者だ。
食べたらさぞかし美味しいだろう。きっと皮膚を舐めるだけでも極上の味がする。歯を立てて、ぶちりと穴をあけて血を舐めたらどんな味がするだろう。考えるだけでくらくらする。だってこんなにもこんなにもこんなにこんなに甘い香り!!
…気が付いた時には私は走っていた。遠回りをしてトイレに駆け込んだ。自分の思考回路に吐き気がする。実際吐いた。味のない朝ご飯を戻してそれらを見つめて泣いた。だって悲しかった。吐く経験なんて今までで片手で数えるほどしかなかった。昨日まで美味しいと思いながら食べていたものを未消化のまま吐き出した喪失感。辛い。少なくとも私には耐えることができなかった。
自分がフォークになるだけならよかった。もしかしたら卒業して、フォークの人間を食べてしまって、それから刑務所に入っている未来が待っていたかもしれないけれど。
でも、学生のうちは、ああ、学生のうちだけは平穏に生きて、友人と笑って、それから、君への恋を温めて。それだけできっとよかったのに。そうしたらきっと腐ったそれを笑顔で捨てれたかもしれないのに。 大事に大事にしてきたの。大事に、してきた、私の赤い果実。それを食べていいんだとぶらぶら眼前で吊らされている。いや、食べていいんだと言われているわけじゃない。食べろ、と。本能が告げている。本能がそう言っている。
人間には理性というものがある。これは、これでは。
こんなの、獣だ。
■
最近むぎさんに避けられている。
一週間ほど前からだろうか、あからさますぎて哀れになるほど避けられている。挙句の果てには「むぎと喧嘩した…?」と男子嫌いで有名なむぎさんの友達がわざわざ俺のクラスに来て聞いてくるほどである。逆に言えばそれほど俺とむぎさんは仲が良かった。
去年の夏に出会ってから、今年の秋に至るまで。
俺とむぎさんはそれなりに良好な関係を結んでいたはずだった。それこそ最初はただの友人として、そうしていつしか、触れたくなるような、手を伸ばしたくなるような存在へと。
映画、誘おうと思ったんやけどな。
夏も終盤に入り、もうすっかり過ごしやすくなっている。そろそろ来る連休に、彼女が見たい見たいと言っていた映画を一緒に見ようと誘おうと、そう一週間前に思った矢先にこれとは。…ついてへんな。とってしまった映画の前売り券を弄びながら彼女の顔を想い浮かべた。
俺は何かしただろうか、と何回も考えた思考に無意識に頭を振る。避けられる先週までは何事もなかったし、土日の間は一緒にゲームをしたほどだった。それが、月曜になって突然顔を合わせなくなった。
休み時間に会いに行けば「いない」と言われ、昼休みに会いに行けば「友達とご飯を食べに行った」だの、放課後会おうとしても最近はまるで脱兎のごとく帰っていく。
そろそろ埒があかへん。
ぱたん、と下駄箱の扉を閉め、そっと裏手に回り込む。
今日彼女は日直だった。玄関近くの下駄箱で待ち伏せをしていれば彼女と会えるはずだ。しまった映画の前売り券を思い浮かべながら、彼女を待った。
■
「遅くなっちゃったな〜…」
下校時刻はとっくのとうに過ぎていて、よく一緒に帰る友達にも当然の如く先に帰ってもらった。階段を一段、二段と降りながらまた唇を触る。
最近唇を触るのが癖になっていた。
味がしなくなったからだろうか。常に口寂しく感じる。いつも食べていた飴ですらがりがりと砕くばかり。なにも味がしないものを砕く行為は正しく無駄。栄養となるにしても 無駄。無駄。無駄に等しい。
昇降口に差し掛かった時。
いい匂いがする。甘いにおい。
…いるんだろうか、近くに、しょっぴ君が。きょろきょろと周りを見るけれど、人影はなかった。…でも確実にいる。視認しなくても甘くていい匂いがするから、それだけは少し救いだった。
でも困った。本当に困った。だって下駄箱の近くにいるということは私が靴を履いてる時に追い詰めるという魂胆なのではないだろうか。それは本当に困る。
だって、普通に帰れない。でも会うわけにはいかないし…。
そろそろと下駄箱に近づく。そろそろこの香りにくらくらしてきた。美味しそう。下駄箱をかぱ、と開ける。いつでも逃げれるように。いつでも逃げれるように…そう、思っていたのに。
「むぎさん」
「…あ、」
動かなかった。体が。ぶわっといやな汗が流れて反応が遅れた。目の前に現れただけで匂いがさっきと格段に変わった。
手を掴まれる。甘そうな手で。
「むぎさん、あの…」
しょっぴくんは美味しそうな顔で…美味しそうな、かお、で?
「や、やだ、いやっはなして!」
「っ、なあ、おい、むぎさ、」
「はな、はなして、はなしてよ…」
強く強く私の手を握ってくれたしょっぴ君に、感謝と嬉しさと、それから苛立ちがこみ上げる。理性は辛うじて保っているけれど、あまいあまいあまい匂いでもうどうにかなってしまいそうだった。
ぽろ、と涙が零れる。ぎょ、としたしょっぴ君が手の力を緩めて、しかしなすすべもなく私はその場に崩れ落ちた。まるで熱に浮かされたかのように力が入らない。目の前の食糧を食べてしまうのが怖くて怖くて、そのまま顔を覆った。自分の涙を舐めてもべつになんの味もしない。
「むぎ、さん。ほんま、どうして…」
「…どうし、て、って」
そりゃあしょっぴ君は私が今どんな状況下に置かれているか知らない。でも、君を守るために君を避けていたのに。どうして君にそんなことを言われなくてはいけないのか。震える声を飲み込んで、それでも伝えるまできっとしょっぴ君は私を逃してくれない。それに、私もこのままでは逃げれない。彼がこの場を去らなくては。
「……な、の」
「…え?」
「…フォークなの。フォークなの!…フォークになっちゃったの。ご飯食べても味がしないの。それで、それ、で」
上手く説明できているだろうか。いや、できてなくても、伝えなきゃいけない。私は君を獲物として見ているのだと。
「しょっぴくんから、あまい、においがしてッ、やだ、もうやだ」
防衛本能が働いて、幼児のようにだだをこねるように首を振ることしかできない。まるで食べなきゃいけない野菜を食べろと強要されている。
「食べたくない、しょっぴくんのこと、たべたくない、よお」
涙でしょっぴ君が果たしてどんな表情をしているのかわからなかった。それでもうすら息を吐く音は、少し安堵がにじんでいたような気がして、すぐにそれが幻聴ではないかと疑った。
「…むぎさん、ケーキって、舐めるだけでも味はするらしいっすよ」
確認のような、知っていた知識をぼそりと呟くようなそんな声。そのすぐあと強い力で腕を引っ張られる。ぎゅ、と歯を食いしばる。至近距離は辛いのに、いやがらせだろうか。
だけど聞こえてきた声は優しかった。
「俺の家、行くで。近いから」
やからちょっと我慢し。そういって私のポケットから勝手にハンカチをとりだして、口元に当てる。
香った匂いにまためまいがしたのを抑えて、私はひっぱられるまま彼についていった。
■
「俺の両親帰ってこないんで」
連れてきてしまった。つい。あんまりにも、あのままやと溶けて消えてしまいそうだったから。無理矢理引っ張ってきたむぎさんはなんというかへろへろで、よくみたらなんだか生気もない。ただずっと鼻や口辺りをハンカチで覆い、少し唸るだけである。
「…帰っても、いい?」
先ほどよりかは落ち着いたのかこちらを見るむぎさん。しかし目が合うとわかるのが、本当に俺のことを「美味しそう」と思っているということ。静寂の中でごくりと喉を鳴らしたのは、確かに目の前にいる女の子だった。
「上がってええよ。ほら」
「…あの」
「食べたいんやろ?」
そこまで言うと息を詰まらせるむぎさん。眉を寄せながら目線をうろうろさせている。
「別に、なにもカニバリズムせえ言うとるんやないですよ。許すのは舐めるだけ、です」
「…でも、食べちゃうかも」
「力の差あるやろ流石に。命の危険感じた時は無理矢理止めますから」
すたすたと見知った家から階段に登れば、慌てたように靴を脱ぐ音、小さく「おじゃまします…」という声。それから俺の後をついてくる小さな足音が聞こえた。
少々こじんまりとした俺の部屋に案内すれば、むぎさんは所在無さげに目線をあっちにうろうろそっちにうろうろ。…正直あまり片付いているとは言えへんからいろいろと 観るのはやめてほしい。俺がベッドに寄り掛かりながらカーペットに座れば、むぎさんも習うようにそっと、俺の正面に少し距離を取って座った。
「…本当に、本当に舐めてもいいの?」
「ええっすよ。辛いんでしょう?そんなむぎさんほっとけませんし。さっきも言うたけど力の差がありますから、むぎさんがヤバそうだったら自分で何とかするんで」
「…そう、だよね。力の差が、あるから…。でも、気持ち悪くない?舐められるのとか…」
「俺がええんやから。ほら」
ん。と目の前に左手の指先を出せばぐらりと理性が傾いたような表情。目がぐるぐるしとる。は、は、という浅い呼吸に触れるようにそっと人差し指を唇におけば、むぎさんは恐る恐ると言うように舌先を指に這わせた。
「…あ、じが、する」
そう呟いたかと思うと、いきなりはむ、と人差し指中指を一気に口に含む。必死に口に含んで、舌を使って吸い取る。
よほど味がしないことを限界に感じていたのか、むぎさんは一心不乱に俺の指を舐めていた。 吸ってもなにも味はしないだろうに。ちゅう、と吸ったり、舌を丹念に這わせて、味わい尽くすようにしゃぶる。
左手の、爪から、指の付け根。手のひら、手の甲、手首。指を二本、口に含んで水音を立てるむぎさんは、正直いってめちゃくちゃエロイ。
ただむぎさんは食事をしているだけ。それでも一心不乱に指をしゃぶる彼女のその行為に、見惚れていたのは事実だった。空気に飲まれてぼんやりとしていた。
瞬間、がり、と。
「いっ、…」
「…っは、ぁ」
歯を、立てられた。痛みの反射で思わず手をひいてしまい、そこから血がにじんでいるのがわかる。
咄嗟にその血をぬぐおうとティッシュに手を伸ばすが、思いもよらない強い力で腕を引っ張られる。そのまま、血をなめられた。
「…っあ、まい、あまい、おいしい…」
「っちょ、むぎさ」
「ん、も、っと、……――ぁ」
思い切り、歯を立てられる。彼女の少し鋭い犬歯が見えて咄嗟に強く口を手で覆った。
「むぐっ!?んん!?ん、ん……」
「むぎさん。むぎ、落ち着いてや、なあ」
俺を食すのは本意ではない。と、彼女自身がそう泣いて乞うたのだ。なら無理矢理連れてきた俺にそれを止める義務が合うのも当然といえるだろう。
獣の様にふーっ、ふーっと荒い息を吐きながらも、俺がじっと目を見つめれば呼吸はだんだんと緩やかになってくる。すー、と息を吸う感覚が手のひら越しに伝わる。…匂いがするのだろうか、俺にはなにもわからないけれど、落ち着きながらも少しうっとりとした顔のむぎは少しだけ扇情的だった。
「…っは、あ、ごめ、ん。ごめ、なさ」
「…ええよ。落ち着いた?」
「…っん、うん…っごめ、…ごめん、ごめん、ね…」
今度は優しい力でそっと手を取り、滲んだ血をぺろぺろと、労わるように舐められる。…犬みたい、だ。
先ほどよりも正気を取り戻したのか、指を口に含むことなくずっとぺろぺろと舐めている。赤い舌がちろちろと覗いて、これは先ほどまでも俺がやばいかもしれない、と、むぎの食事を見つめながらそう心の隅で思った。
…
どれくらいしていただろう。夕焼けはもうすでに沈んでいる。俺の両親の心配はないが、彼女の家はそこそこ厳しい。そろそろ帰らせなきゃやばいかもしれない。
「…むぎさん、な、時間…」
そういうと、どろどろの目をしたむぎさんは一瞬身体を止めて、それでもきゅ、と、まるで離さないぞといわんばかりに俺の腕をつかみまた舌を這わせる。
「は、も、ちょっと、だけ。もうちょっと、だけ。もうちょっとで、がまん、する」
それはキリがないやつでは?「なあ」となだめるように声をかけても、ふるふると首を振って子供の様に、でも大人しく駄々をこねる。…その時俺はひどい手段を思いついてしまった。…果たしてそれが通じるかどうかは分からないが、俺は強行手段に出ることにした。
むぎの両手を掴んで視線をこちらに向けさせる。強いなと思った力はやはり男女の差には敵わず、どろどろの、まるで正気を失った目でこちらを見るばかりである。
それはそれで好都合やった。これからする行為は、素面でやるには恥ずかしすぎる。
「…むぎ、あ」
「…あ、あ、ぁあ、あ」
舌を突き出すようにして口を開ける。少し唾液を見せながら。そうするとむぎさんの目の色が変わった。ほしいほしいと訴えてくる。
恋人でもないのに、いけないことだろう。きっと彼女も正気に戻ったら後悔する。それでも俺はその後悔に対する言い訳をちゃんと考えてはいるのだ。
「…ごめんな」
そう一言囁いてから、舌を突き出してむぎさんの口に寄せる。一気に彼女の舌が俺の舌を絡めとり、口内の唾液を吸われる。絡めて、取られる、まだ出して、もっと出してと言うようにむぎさんの喉がごく、ごく、と鳴って。
しゃあない人。こんな姿、誰にも見せたくない。そう頭の片隅で思った。
ただの食事なのに、こんな風に性を入り混じらせて。
責任取ってほしいわな。
「ん、ぐっ、んぐ、ふ、ッふー、は、ぁ」
「…んあ、…っは」
ちゅぽ、と。口が離れる。むぎさんはまだ満足していないかのようだったが、もうすでに顔がくらくらとしていて、酸欠になってしまったんだろうな、とどこか他人事のように見た。キスは初めてだったが、どうにもうまくできたようでよかったわ。上唇をぺろりと舐めながら知られないように安堵のため息をついた。
「…むぎさん、ん」
「…あ、ごめん、なさい」
数分してから。いまだぼやぼやしているむぎさんにウェットティッシュを渡せば我に返ったようにうけとり、口を拭いた。
俺は放心しているむぎさんを横目に、唾液塗れの手を同じようにウエットティッシュで拭く。…少しだけ、ばれないように唾液塗れの手を拭くふりをして、そっと舌を這わせた。
「…」
味なんてするはずもなく、少し腹が減ったな、と。肉が食いたいと微かにそう思った。
■
お送ります、という言葉に甘えてしまった。でも本当に真っ暗で帰り道に何かあっても自分がこまるなあ、と思い申し訳ないと感じている自分を無理矢理納得させた。
「送ってもらって、…ごめんなさい…」
「ええよ、別に」
それはそれとしてこういう時は謝るに限る。本当にハメを外しすぎてしまった。ヒトをべろんべろんなめるなんて、本当に獣にでもなったような気分だった。でも美味しかった。いままで食べたことないような本当に美味しい味だった。
皮膚は甘くもあり、でもちょっとしょっぱさが効いてて飽きない。吸いついて噛み千切れば、きっと果実のように美味しいんだろう、と、そう思ってつい歯を立ててしまったときはさすがにぐらぐらしたけど…、止めてくれて本当に良かった。でもそれはそれとして、ちょっとだけ舐めた血の味も本当に 美味しかった。あれはなんだろう。甘酸っぱい果実…ざくろ…?なんだか酸味が効いてて、それでいていちごみたいに甘くて、でも少しどろっとしてるその舌ざわりから、なんだか甘いソース…を、飲んでるみたいで、でも決して味が濃いわけでもなく…。いやいや、血はもうだめ。あれは飲んじゃいけない。うん。…たまに、たまにねだる程度にしよう。
でも一番…いちばん美味しかったのは…
「唾液…」
「…むぎさん?なんかぼーっとしとるけど大丈夫すか」
「ダッ!?ダイジョウブ!!ムギダイジョウブデス!!」
「…そうすか」
味を思い出しながら歩いていたら、ぼーっとしていたみたいでしょっぴ君に心配された。まるで今日の晩御飯のことを考えていた時と似ているが、その実際考えていたのは人の味なんだから(しかも目の前に本人がいるし)溜まったもんじゃない。私も、勿論しょっぴ君、も。
しかしながら、本当にフォークになってしまったんだ。隣をちらりと見れば、依然として甘くていい香りを漂わせるしょっぴ君。以前はこんな風に匂いなんて考えることすらなかったのに。散々舐めたのにまだ足りない。まだ、まだ足りない。そんなことを頭の片隅で考えて無意識に息を吐き出す。
「どっか遠くに引っ越したいなあ」
「…なんで?」
少し驚いたような声が聞こえて、しょっぴ君の顔があるであろう少し上を向く。そこには暗闇の中、街頭に照らされた少し不機嫌そうなしょっぴ君の顔があった。…なんでそんなに不機嫌そうな顔をしているんだ?
と、顔に出ていたのかふい、と目をそらされる。そして素っ気なく言葉を吐き出した。
「ええやん、別に」
「エ!?」
「…きょ、今日みたいなことが続くんだよ?」
「ええですよ別に」
「だ、…舐めるよ…?」
「ええよ」
「は、歯も立てちゃう、カモ」
「痛いのは…まあちょっとだけなら」
「…Мなの…?」
「そんなわけないやろ」
顔をしかめられてぐう、と引き下がる。じゃあ、なんでだろう。М…ではないなら、それは、もしかして。
思考を張り巡らせていると、ふと匂いが強くなる。顔を上げるとすぐ近くにしょっぴ君の顔があって、それで。 さっきとは違う、欲に塗れた貪るようなキスじゃなくて。ふんわり触れるようなキス。ゆっくりゆっくり離れていった唇の感触は意外にもしっとりとしていて、、グミ、みたいな…砂糖漬けのレモン、みたいな、…味、が。
「…き、すした」
「しました。…順序逆になってもうたな」
ゆるりと目を細めて、それから少し顔を赤らめて、柔らかい生クリームみたいに微笑む。かわいい。かわいくて、おいしそうで、それを覆うくらいの、羞恥と嬉しさ。
「好きです、むぎさん」
口からこぼれる言葉に味はなかったけど、それはきっと生クリームみたいに甘い。
「俺と、恋人になってください」
それでいて、すぐ溶けちゃう。溶けちゃう、から、もっともっと味わいたいのに、でも一瞬で充分な、ような。ああだめだ、全然思考がまとまらない。いつものことだけど、でも。
はくはくと魚みたいに口を動かしながら、必死に声を絞り出す。嬉しさでうまく動けない、なんて、私にとっては珍しかった。
「…は、は、い。うん、…なり、ます」
「…っは〜……ん。はい。ありがとう、な」
緊張していたのか大きくため息をついて微笑んでくれるしょっぴくん。
ふんわりと甘い香りが強く強く香って、ああ、いつか彼が死ぬときは、私がすべてを食べたいな、と。その考えを深く深くにしまいこんだ。
■
むぎさんの家の灯りが見える。意外と近くて一緒に登校できそうやなとか女々しいことを考えてしまった。
ここまででいいよ、と言われたのでまあ玄関近くまでいたら家族に見られても厄介やろうしな、と、頷いておいた。
小走りで数歩先を行ってからくるりと振り返るむぎさん。玄関先のライトに照らされて、逆光気味のむぎさんの笑顔は少しだけ…知らない人の様に思えた。
「じゃあ、さようならむぎさん」
「…うん。また、またあしたね、しょっぴくん」
それでも小さく手を振るむぎさんは、やっぱり小さくて、俺が守るべき女の子だった。
■ ■ ■ ■
「俺の味ってどんなんすか」
「…急では?
しょっぴくんの…皮膚?皮膚は、なんかあまい…でもちょっとしょっぱい…」
「…砂糖醤油?」
「ううん…基本的に人の味って…しょっぴ君しか知らないけど…今まで食べたことがない、おいしい〜味がするんだ…」
「(恍惚としてる…)」
「あまい皮膚…でも全然飽きないんだよなぁ…舐めても舐めても美味しくて味がして…酸味も効いてるのかな、でも基本的にはケーキみたいな…。なんだろう、あれ…う〜〜ん…基本的には甘いんだけど…、表現できない…。
あ、あと、血は…ちょっと舐めただけだけど…ラズベリーソース、かなあ…甘くて…すっぱくて…でもやっぱり甘くて…おいしかった…」
「…血はいやですよ」
「わ、わかってる…大丈夫、心配しないで。一番おいしいとこはここ!ってわかるから」
「どこすか」
「唾液!!」
「…」
「しょっぴ君の唾液はね…とってもあまいんだ…粘性があるからかな…ちょっとはちみつっぽくて…でも、果実の味もする…みずみずしい…あれは何だったんだろう…葡萄かなあ…桃…苺…とにかく、あまくて濃厚でそれでいてスイートで…でも飽きないの…もう…もうあれは…」
「…いまは無理っすよ」
「た、たべないよ…そんなに、べつに、節操なしじゃない。がまんできる…」
「…まあ、家で、なら。ええから」
「…アッ、ウ、…ウン…」
「恥ずかしがらんといてください!一応むぎさんの食事なんですから!!」
■ ■ ■ ■
むぎ
高校二年。中秋にフォークになってしまう。フォークとしての症状(病気ととらえていいのかわからない)は軽度に近く、節操なしにフォークを襲うということは今のところない。食欲は耐えようと思ったら耐えられるけれど食べること自体は好きだったので味がしなくなってからすごくつらかった。ぶっちゃけ食欲耐えるだけなら理性はそこそこ強いほうである。
ショッピ
高校二年。後天性ケーキ。いつからケーキなのかは不明だが、後天性の為平穏な生活を送ってきたといえる。今回の一件で少し気をつけようと防犯グッズを購入した男子高校生。正直むぎという少女に好意を抱いていたもののあんな風に攻められるとは思っていなかったので興奮している。歯を立てられるのにも興奮する。ただあんまり顔にでない。
あとがき書くために長いお話書いてるところはあります。なぜならこういう自分語りが私なりに一番楽しいからです。
普段こういう…筋道を立てて書くお話とか、とても苦手です。だってどういう表現したらいいかわからないし、ボキャブラリーが貧困で表現の言い回しが重複したりだとか。今回のお話も重複していないかと問われれば普通に重複していると思います。うっかり。
でもすごく楽しかったのは、やはり食に例えて表現する…比喩?比喩っていうんでしたか、行動とか味がしないものを味がするように表現するのが超楽しかったです。普段もこんな風に表現しますが今回はいつもの倍食に絡めた表現をしたように感じます。
やはり三大欲求と言われるくらいではありますから(食は生と直列的に結びつきますし)一番身近といっちゃあ身近なので、どうにも食とか味とかと絡めた表現をよくしてしまう、気がします。というか楽しい。
表現として味はとてもわかりやすいと思います。人それぞれの感性はあれども、「甘い」という味に変化はありません。「甘い」という言葉はカップルの表現にも使われるくらいですし、…そう思うと世間一般の方々も味を使っての表現を頻繁に使っているのでは?私もその中の一人だったというわけでしたちゃんちゃん。閑話休題。
最初は過去フォロワーさんが書いてたケーキバースの、女の子がフォークで相手を舐めるのめちゃくちゃえっちだないつか書きたいな、と思っていたのがきっかけです。
ケーキバースぴむぎ、むぎフォークしょっぴケーキは前々からちょくちょく出してた話題でした。書けて満足です。
捕食()シーンは少々物足りんかも(本当は首元とか舐めるシーンを入れたかった)と思うんですけど、まあそれは未来編とかで書きゃいいでしょ。すべては未来の私に託されました。ケーキバースに関するオムニバス小説同人誌を未来の私がきっと作ってくれるので。はは。
ケーキバースにて、今回私はしょっぴ君の味を大体すべて「甘い」と表現したのですが、他のフォロワーさんはどう表現するのでしょうか。友人の中には甘いものが苦手、という人もいるのでお相手の味をどう表現するのか。どう感じるのか。私そこらへん気になります。適当に呟いてくれると私が嬉しいです。
いつか未来編とかむぎケーキしょっぴフォーク版ケーキバースも書きたいので、またそれらがあがったら適当によろしくお願いします。
では長すぎても飽きられるので。
閲覧ありがとうございます。お疲れ様でした。