緩やかな心中自殺:pi



『ねえショッピくん!
私、ショッピくんの副流煙で死にたい!』

彼女であり、同居人の名前がそういったのは大体五ヶ月くらい前のことだった。
なぜ彼女がそういったのかはわからない。
ただ、時折抱きついてきたときに、「この匂い好きだな」とか、俺のタバコの匂いをやけに好いていたのを思い出す。

「…名前?」

時刻は夕方。夏だからか、日が暮れるのが遅い。カーテンの隙間から橙色がちらちらともれている。
俺らの家のどこかしらには、タバコのゴミがあった。箱でも、灰皿でも、缶でも。
いつしか匂いは家にこびりついたみたいで、賃貸マンションだから、と、どこかしらで売っている匂いを消すみたいな道具置いて、しかしそれも意味を成していない。

「……」

眠るように目を瞑って、ソファで横たわる名前を見る。寝ているにしてはいつもよりも動作が少ないように見えた。

「……」

さらり、と、化粧をあまりしない肌に触れれば、ひやり、と、まるで氷のように冷たい。

「……ああ」

タバコというものは、吸っている本人よりもその周りの人の方が危険度は高いらしい。所謂、まあ副流煙とかいうやつで。
苦しんだのだろうか、胸元の服は強く握ったようなシワがある。
こつ、と、額と額をくっつける。自分の体温が吸い取られるようだ。
ここ数ヶ月、タバコを吸う量を多めにした甲斐、だろうか。今回の健康診断でも、早期の治療をした方がいいと言われた。
だけれど、どれもこれも、気分が良くなる程自分の思い通りだった。

「……名前さん」

貴女の手が、俺をもう撫でてくれない。
貴女が、もう笑いかけてくれない。
それでも、俺はいま幸せだ。

「……きっとまたすぐ会えますよ」

そう言って彼女の手を握る。それでも彼女はいつものように無邪気に笑って、握り返してはくれないけれど。



(取り敢えず、タバコを買うか)