What a day !


絶賛コンビニでバイト中の女の子にこんな仕打ちある?

いつもなら30分前に上がって今頃温かい湯舟に浸かっている時間だというのに、今日は夜勤の店長が『ごめんちょっと野暮用で…10分ぐらい延長してもらっていい?』と言うのでまぁ10分程度ならと引き受けたのが運の尽き、30分経過しても交代の店長はまだ来ない挙句、仕方なく店内の整理整頓をしていたら酔っ払いのおっさんの持ち物にぶつかってしまったらしく、言葉は聞き取れないが恐らくクレームをぶつけられている悲惨な現状になってしまった。ちょっとぶつかったぐらいでそんなに怒る物なら肌身離さず持ち歩けよ。店の出入り口にポツンと置いてあるものがまさか店内にいる客の持ち物だとは誰も思わないだろう。荷物置き場じゃねぇんだぞ。

そして更にタイミングが悪いことに、一緒に入っていた同期は腹痛のためトイレ籠城宣言をしていった後だった。

使えねぇ〜。
店長といい同僚といい、どいつもこいつも使えねぇ〜!

私はただ困っていた店長を手助けして、店内の整理をしていたただの功労者なのに。
コンビニバイトの鏡として時給1,000円ぐらいアップされてもいいぐらいなのに。


酔っ払いが発する、言葉になっていない汚い音の羅列を馬鹿正直に聞く程のお人よしではないので、適当に相槌と謝罪の言葉を発する。申シ訳ゴザイマセン。
こうして人間は“オトナ”になっていくんだなぁ。大人の階段登ってるなぁ。こんな辟易とした階段登りたくははなった。



「おいおっさん、俺結構レジ待ってんだけど」
もう退いてくんね?



他のお客の存在に声をかけられて初めて存在に気がついた。
しかもこんな面倒な酔っ払いに話しかける救世主はいったいどんな人な…でか!てかイカツ!怖!

長い前髪…、もはや前髪であっているのかどうかもわからない。
救世主はこの髪型に今後出会うことはないだろうと確信させる奇抜な髪型をしていた男の人だった。
一部の長い髪を前にたなびかせ、左のこめかみ辺りに恐らく本物の刺青が見受けられる。
頭皮にも刺青って入れられるんだ?確かに最近よく頭も皮膚であり顔の一部だからマッサージするといいって聞くもんな。今日からしよう。


酔っ払いのおっさんも同様にイカツイ高身長の男に肝を冷やしたのか、ひぃッと口からこぼしていた。初対面にひぃッはないだろ、気持ちわかるけど。


返事をしない相手に更に苛立ったのか、元からイカツイであろう顔を歪ませた。

「いやだから…俺はやく行かなきゃなんねぇのにもう随分待ってんの。そろそろレジ譲ってくれや」

そう言われたクレーマーおっさんは何も返すことなく荷物をまとめて足早に去っていった。

あいつ失礼すぎないか、一言ぐらいいえばいいのに。



そして何事もなかったのように空いたレジ台にブラックコーヒー缶と小銭が置かれたので、本来の業務を全うする。

レジ開始前に言ういらっしゃいませのタイミングを失ってしまった。
ほ…ほら、いつもならお客さんが来た時に言うから。



キャッシュレジスターが商品バーコードを読み取る音は、いつもこんなに大きかっただろうか。



置かれた小銭をレジに入れ、パネルに表示された金額をすくって渡す。
受け取ったお釣りだけをポケットに裸のまま入れて店内を出るイカツイ刺青のおにいさんを見送って気がついた。




「…お礼言い忘れた」

酔っ払いおっさんを非難する資格を失った瞬間だった。







Top Back