きみの体温

「けぇちゃん、足、布団から出てない?」
「おう。ほらな」

 布団のなかをもぞもぞと動かして大きい足先がナマエの足の甲を撫でてきた。数字にするとたかだか数センチ程度の差なのに、靴だとか、実物をみると全く違うサイズなのだと実感するのだから、ナマエはいつも不思議に思っていた。


「電気とエアコン消すぞ」
「うん」

 ピー、とリモコンに従って部屋が闇に包まれる。場地が枕元に手を伸ばしもうひとつのリモコンを探っていると、押し出されてしまったリモコンがベッドから飛び出し、床とぶつかる硬質な音が耳を刺激した。

「あっやべ、リモコン落ちた」
「エアコンの?」
「ウン。まだ消してねぇ」
「起きた時、布団に入ったままエアコン付けられないじゃん」
「でも布団から出たくねぇ、寒い」
「でも朝着替えるとき寒いの嫌じゃない?」
「嫌」
「でしょ」
「ンー…」

考えこんだ場地はなにか閃いたようで、陽気な声をあげた。

「ナマエを抱きしめて出たら大丈夫じゃね?」
「動きにくいって」
「んー…あ、いいこと思いついたワ」

 また別の案を思いついたらしい場地は元から近かったナマエとの距離を更に縮めた。

「え、なに、んむ」

 何が起きるのか未だ見当がついていないナマエのことはお構いなしに場地は自分よりも小さな顎を指で挟んで固定し、口を塞ぐ。
 対するナマエはというと急な出来事に驚き、咄嗟の抵抗として自分の顎を掴んでいる手をはがそうとした。が、足と同じように体格差のある大きな手は全く動く気配がない。
 その間にも舌が侵入してきて、くちゅりと水音を立てる。角度を変えて回る舌のせいで文句の代わりに吐息が漏れてしまう。

 抵抗していた手が脱力してたぐらいで熱い吐息が顔にかかった。
 熱を帯びた瞳を隠そうともしない場地は、手の甲で透明な糸が引いた唇を拭うと布団を後にした。そして解放されたナマエが息を整えているうちに、床に落ちたリモコンを白い機械に向け、動きを停止するよう指示を出した。


「なにすんの…!」
「カラダあったまったら布団から出ても平気だろ?」


 いそいそと布団に入り直した場地は再びナマエに接近する。
 二度も同じ手をくらうほどナマエも馬鹿ではない。その近づいてきた場地の口を手の平で押し返した。


「なにすんだよ」と見るからに不服そうな顔をしている場地に「明日も仕事あるでしょ」とナマエが返した。


「そうだけどよォ〜、ナマエはしたくねぇの?」
「…明後日は休みだから、また明日ね」

 ナマエの返事を聞いた場地は先ほどまでの不機嫌が直ったらしく、ナマエの体に腕を巻き付けていつもの寝る体制に入った。

「んじゃ今日は大人しく寝るか」
「けぇちゃん! 忘れてる!」
「あ、悪ィ」

 無事に寒い朝の日を回避できたふたりは見合わせ、刹那に唇を合わせ就寝前のいつもの挨拶をした。

「おやすみ、ナマエ」
「おやすみ、けぇちゃん」







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