嘘と星

1日の始まりだというのに太陽は雲に隠され、どんよりとした天気。
最近の自分にぴったりな言葉だと自嘲的になってしまう。

働き始めて数年が経つ会社で、責任のある仕事を任されることとなった。
そのせいか、いやそのせいだけではないが恋人ともここ最近ろくに連絡を取っていない。

そもそも私の方が積極的に連絡をとっており、相手側はその返信をしているだけなのだと薄々感じてはいたが、こうも明瞭な現実として現れると正直ショックだった。

不器用で嘘がつけなくて真っすぐな彼を慕う人は数知れず、
デート中にも関わらず見目麗しい女性たちから声がかかるほど彼の魅力を世間は放っておいてはくれないだろう。


きっと、このままこちら側が連絡をとらなければ、あたかも初めから何事もなかったかのように出会う前に戻ってゆくのだろう。


いつもは特に気にしていなかった、時計代わりにつけている朝のニュース番組の星占いの結果が全くその通りではなくて、ひとり勝手に理不尽な不満を覚えた。





自分で勝手に予想していたことを深層では案外気にしていたようで、
いつもとなにも変わりなく業務をこなしているつもりだったが、実際のところは全くそうではなく、
気がつけば、職場には自分ひとりが残っている状況だった。

くたくたに疲れた状態でなにかを作る余裕があるはずもなく、
人の少ない最寄りのスーパーでありあわせの総菜を購入する。

会計を済ませた食材を詰める袋を探している際に、鞄の中で光を見た。
発光するものなど、携帯電話の他にあるはずもなく、その原因はきっといつ登録したのかさえ覚えてもいないメルマガだろうと自己解釈して終わらせた。

自宅に到着し、鍵を探している最中にも同じ光を見た。
メルマガもここまで頻繁に、しかもこんな時間帯に送られることもないだろう。

大人しく画面を確認すると、珍しく、先ほどまで考えていた恋人からの着信を知らせる光だった。

着信に反応する気になれず、手の中で発光する機械をただ見つめているうちに、いつもの見慣れた画面に戻っていた。
鞄の中に戻そうとしたところで、再び先ほどみた名前が画面に表示されていた。


『もしもし?こんな時間までなにしてたんだよ』


先ほどスーパーにいた時にも電話をしてきたらしく、何度かけても繋がらなかったことに対してぼやいていた。

彼にとってはただのぼやきであっても、受話口から聞こえる声に安心する自分が惨めで仕方なかった。

弓が張ったような緊張感をじんわりと解きほぐしていく声に自然と涙が溜まってゆく。


何も発さない私のことは気にも留めず、恋人は話を進めた。


『ナマエさ、今日、最下位なんだよ。星占い』
「ん?」

聞こえてきたのはこちらの機嫌を伺う言葉でもなく、予想にもしていなかった安っぽい星占いの結果で思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
目を張っていた水も不思議なことにどこかにいっていた。

『で、ラッキーパーソンっての?が長髪の恋人なンだわ』

そんなはずはない。
今朝、現実とは真逆のランキング表を恨めしく睨みつけていたことは記憶に新しい。

『だから、俺に会ったほうがいいと思う』

恋人の言うことに困惑していると、そんな状況と沈めさせるかのように来客を知らせる音が部屋と受話口の両方から聞こえた。

まさかと思い、玄関先のスコープを覗くと携帯電話を耳に当てた、長髪の恋人が立っていた。



「なんで、来たの?」
「だから、ラッキーパーソン」

真っすぐこちらを見て言う彼に、再び目が潤み始めた。

「…うそだ」
「嘘じゃねぇ。けど、俺が会いたかったのもある」

腰と背中に腕が伸びてきて、あっという間に彼に抱擁されてしまった。

無骨で大きな手がゆったりと頭を撫でる。
頼りがいのある、落ち着く匂いがする肩に顔をうずめるほかなかった。


「つか、俺が会いたかった」

頭を行き来していた手が左耳を触る。
体を少し離して顔を見合わせた。


「わたしも、会いたかった」

合った目線を瞼で閉じてから、唇を重ねた。



2022.08.11







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