甘いカラ松


いつだってそばにいてくれたよね。
怖いって泣いたあの夜も
寂しいって呟いたあの夜も
いつだって息を切らして会いに来てくれた。

いつだってあんたはあたしのヒーローだった。
こんなの恥ずかしいから絶対に言わないけどさ。
馬鹿みたいに優しくて、
とんでもないお人好し。
私のワガママにあんたはいつも笑って、あたしの素直じゃない言葉にもなんでもないみたいな顔をして、そうしてあたしの頭を撫でるんだ。



グスグス鼻をすすって、腕に顔をうずめる。
やだやだ。
生きていたってろくなことがない。
今日は朝から寝坊するし、電車は遅延するし、先輩には理不尽に怒鳴りつけられて、まったくひどいめにあった。

彼氏は浮気してるし、寝癖は直らないし、もうしんでしまいたい。
膝に顔を埋めて、グスグス鼻をすする。


「ばかぁ」


誰に言うでもなく小学生みたいな悪口を呟いて、ぎゅっと目を瞑る。
小さなころから私が一人になるのは決まってこの公園で、ここで膝を抱えて過ごす。
ほんのりオレンジに染まる空をぼんやり見つめながら、ボロボロ溢れる涙を拭うこともせず鼻をすする。


「みつけた」


低い声が響いて、太い腕が目の前に回ってくる。
振り向くより先にそっと抱きしめられて、体温が伝わる。


「……」
「心配したぞ」


カラ松はいつだってやさしい。
私を責めたりしないし、優しく笑って傍にいてくれるんだ。


「ラ松、」
「ん」
「カラ松っ」


来てくれるって、心のどこかで思ってた。
ぼろぼろ零れる涙をそのままに、カラ松の腕に顔を埋める。


「ん、頑張ったな」


今日だって、なんにも言わないで、こんなに優しい。
そっと抱き寄せられて、頭の上に顎をのせて1度だけ髪にキスをする。


「なまえはよく頑張ってる。俺が一番よく知ってる。今日くらい我慢しなくていいだろう」
「き、今日寝坊してっ、電車おくれてて、」
「うん」
「せ、先輩意味わかんないことで怒るし、うまくいかなくてっ」
「えらいな、えらいよ」


大人気なく泣きじゃくる私を抱きしめて、優しい声をかけて。


「か、彼氏浮気してるし、いいことなんていっこもないっ」


声を上げて泣き出した私に、カラ松は眉を下げてよしよしと髪をなでる。
抱きしめられた体温が優しくて、安心する。



さんざん泣いて、ようやくスッキリした頃には、辺りはもう真っ暗になってしまっていた。
重い瞼を伏せて、グスグス鼻をすする私に、カラ松が小さく笑った。


「落ち着いたか?」
「うん……ごめん……」
「謝る必要はない。俺が好きでやってることだからな」


カラ松はとことん優しい。


「……ありがとう」


ぽつりと呟いた私に、カラ松が困ったように笑う。
いい年こいて恥ずかしいことをしてしまった……と、少し後悔する私に、カラ松は額にキスをした。


「へ」
「……すまん」


きょとんと顔を上げると、視線をそらして手元を口で抑えるカラ松。


「え、い、いま」
「……我慢出来なくなった…本当にすまん」
「が、がまん」
「…………オレが誰にでもこんなふうに優しいと思ってるなら、それは、違う」


あ、顔、少し赤い。
じっと瞳を見つめられて、少したじろいでしまう。


「特別な相手にしかこんなことしない」


俺にしておけばいい。
真っ直ぐな視線と、真っ直ぐな言葉に、目を逸らすことも言葉を発することもできない。
小さく頷いた私に、カラ松は優しい顔で笑ってくれた。




四万打企画のものでした。

うたかた