おそ松の世界一


結婚することになったの。
親友だから、いちばんに言いたくて。
そう笑う彼女は女の私から見てもとても可愛くて、綺麗だった。
二年付き合った大好きな彼からプロポーズを受けて、二つ返事で了承したらしい。
その足で買いに行ったというシンプルな指輪が、彼女の細い指にとても似合っていた。


「ただいまぁ」


ぐったりと、はしゃぎすぎて疲れた身体で玄関に座り込む。
慣れないパンプスで足は痛いし、ひらひらのドレスは窮屈だし、きっちりセットしてもらった髪が煩わしい。
あまりに幸せそうに笑う親友に、わたしといえばただただ彼女の幸せを願うことしかできず、ぼろぼろ溢れる涙はなかなか止まってくれなかった。
綺麗だった、素敵だった。
彼女の相手はそこそこいい家柄の優しそうな人だった。
なにより、彼女のウェディングドレス姿に、感極まって号泣してしまっていた。
僕は幸せ者だ。
そう泣き笑いした彼の隣でわたしの親友は、心底幸せそうに微笑んでいた。


「あれ、なまえオカエリ」


ひょこりと、リビングのドアから顔を覗かせたのは、もう同棲して二年になる彼だ。
出会った頃は高卒ニートだった彼は、交際一年半でようやく働く気になってくれたらしく。
それまで夢中になっていたギャンブルからもすっかり足を洗って、真面目に会社員をしている。


「どうだった?親友ちゃん」


玄関に座り込むわたしの手をとって、リビングのソファにどかりと座り込む。
おそ松に促されるまま隣に腰を下ろせば、ビール片手の彼がカラカラと笑う。


「すっっっ……ごい綺麗で、幸せそうだった……!」


友人の結婚式に出席するのはもう何度目だろうか。
だけど、今日の式が一番感動したし、ばかみたいに泣いてしまった。


「旦那さんも格好よくて優しそうでね、二人共お似合いで、幸せそうで」


思い出して涙ぐむわたしに、おそ松は笑って泣くなよ、と指で涙をすくってくれた。
だってほんとに、綺麗だった。
だけど、だけど。
いいなあって、思ったんだ。
今までだって、そうだった。
周りの友人が結婚するたびに思うのは、良かったねって気持ちと、羨ましいって気持ち。
わたしも、いつかは。
だけどいつかって、いつくるんだろう。

おそ松は、私のことを好きと言ってくれるけれど。
くっつくのは好き、キスはする、それ以上だって何回したっけ。
だけど、肝心の言葉は貰えていない。
きっとおそ松は、結婚願望はないんだろう。
自由が何より好きで、縛られるのが嫌いな人だ。
子どものまま年をとったような人で、私はそこを好きになったんだ。
喧嘩しても浮気されても、それでもおそ松が好きだから。


「そっか、そんなに綺麗だったのぉ?」
「うん、ドレスすごい似合ってたし、なんか、昔から一緒にいたから、感動しちゃった」


ぐすりと鼻をすするわたしに、おそ松が柔らかく笑ってくれる。
仕方ないなって顔。


「でも俺もっと綺麗な花嫁知ってるよ」
「……は?」


おそ松、今日の式来てないじゃん。
またAVか、ドラマの話かなんて、ちょっと呆れる。
デリカシーないなあ、とか。


「次お前の番な」


ニコニコ笑いながら、おそ松がわたしの頬をつつく。
え、は?
いまなんて?
ぱちくりと瞬きを繰り返すわたしに、おそ松は楽しそうに笑う。


「世界一綺麗な花嫁にしてやっから」


すきだよ、なんて。
そんな、畏まったセリフ、いつも言わないくせに。
私の左手をとって、薬指に宝石が光る。


「へへ、ビックリしただろ?」


だって俺、このためにまともな社会人してんのよ?なんて、鼻の下を擦るおそ松が、イタズラが成功した子どもみたいに笑う。
ありがとう、だいすき。
思わず抱きついてそう言えば、泣くなよ、と呆れた声で髪をなでてくれた。

うたかた