十四松とあのこ


※学パロ

『あのこ』は、少しだけ変わった女の子だった。
よく笑うし、よく喋る。
あのこの周りにはいつも誰かがいて、大勢の人が楽しそうに笑っている。

(なのに)

僕はいつも不思議だなあ、と思う。
あのこ、笑ってるのに、泣いてるみたいなんだ。


「なまえちゃん」
「……なあに、松野くん」


いつだってなまえちゃんは、綺麗に笑う。
おそ松兄さんはなまえちゃんは可愛くて美人だって鼻の下を伸ばしてた。
カラ松兄さんは笑顔がcuteだと格好つけていて、チョロ松兄さんは誰にでも分け隔てないよねとデレデレしてた。
一松兄さんは笑顔が太陽みたいだから近寄れないと卑屈になってて、トド松はあのこが弱音や愚痴を言ってることがないって笑う。
だけど。


「楽しくないの?」


いつだってそうだ。
無理して笑ってるみたい。
1度だけ、彼女のほんとの笑顔を見たことがある。
放課後、校舎裏、小さな野良猫を撫でてたあのこ。
長いまつげを下に向けて、大きな瞳をお月様みたいにして、つやつやの唇でにっこり笑って。
僕、あの時、こんなに綺麗なものがこの世にあったんだなあって、思った。
だから。


「……なんのこと?」


ひくり、なまえちゃんの笑顔が少しだけ崩れる。


「なまえちゃん、いつだって、寂しそう」


友達は沢山いるのに。
いつだって彼女の瞳は泣き出しそうで、小さな背中は悲しそうだった。


「どうして?」


彼女の大きな瞳の中に、僕が写り込む。
唇をきゅっと噛んで、黙ってしまったなまえちゃんをじっと見つめて。
ぽろり、と、涙がこぼれた。


「どうしてそんな事言うの?」


気づかないで欲しかったのに、と、彼女は言う。
小さな白い手は震えてて、肩はいつもより頼りなく見える。


「こわい、わたしの本性、暴かないで」


瞳からこぼれる涙は宝石みたいで、思わず手を伸ばして掬いあげる。
ひくり、と、彼女の身体が強ばった。


「ぼく、なまえちゃんが笑ってるの好きだよ」


目の前の彼女は、意味がわからないというふうにぱちくりと瞬きを繰り返す。


「嫌なこと、嫌って、言っていいよ。辛かったら、辛いって、言えばいいよ」


にんげんだもんね。
つかれちゃうね。
へらりと笑いかけたら、彼女は本格的に泣き出してしまった。


「つらかった、さみしかった、私は弱いから、」


ぐすぐすと嗚咽を漏らす彼女にどうしていいかわからなくて、とりあえずそっとハグしてみる。
こうすれば、ストレスが減るって、どこかで見たことあるような。
控えめに、だけど確かに僕の背中に手を回す、小さな手のひらがどうしようもなく愛しかった。

うたかた