高校生おそ松


※学パロ
※主の母親が他界しています



ぼんやりと川を眺めて、腰を下ろす。
草が生い茂るのも気にせず、スカートが汚れるのも、下着が見えてしまいそうなのも、どうでもいい。


「やだな」


わたしには血の繋がってないお母さんがいる。
別に仲が悪いわけではないし、よくしてくれるけど。
だけど、自分の家にいつでも他人がいるような気がして、落ち着かないし、気持ち悪い。
お母さんが好きだった。
優しくて、綺麗で、温かい母親。

父は、何を考えて新しい妻を迎えたのだろう。
今更、あのひとをお母さんなんて呼べない。
私のお母さんは1人しかいらない。


「帰りたくない……」


膝に顔を埋めて、じわじわ滲む視界を睨む。
少しずつ暗くなっていく景色と、肌を掠める冷たい風と。
それでも立ち上がる気にはなれなくて、小さく丸まったまま川の流れを見つめる。


「君、こんなとこでなにしてるんだ。今何時だと思ってる」


ぱっと視界が明るくなって、響いた声に肩を揺らす。
ちらりと腕時計を見ればもう時計の針は日付を越えようとしていて、しまったと内心舌打ちをする。


「ごめんなさい、うとうとしてたら寝てしまっていて」


嘘ではない、けれど。
こんなところでぼうっとしていた理由はきっと聞かれるだろう。
観念してそっと後ろを振り向く。


「は」
「なまえちゃんまじなにしてんの?」


そこにいたのは警察官でも大人でもなく。
いたずらが成功して嬉しそうな笑顔で、わたしに懐中電灯を向ける。
松野おそ松。
同じクラスで、話したことは数回しかないけれど、よく知っている。
口がうまく明るい彼は、いつだってクラスの中心にいる。
悪巧みをするのがうまくて、逃げ足が早くて、先生に目をつけられてはいるけれど、憎めない人。


「松野くん」
「女の子がこんな時間にひとりであぶねーって」


手のひらが差し出されて、戸惑いつつ手を取れば、つめてえと眉を寄せる。


「なまえちゃんいつからここにいんのよ」
「え……ごめん、おぼえてない……」


立ち上がった私をじろじろ見つめて、松野くんは大きくため息をつく。
それから手のひらを離さないまま、歩き出す。


「なまえちゃんちこっち?」


指を指す松野くんに、小さく頷いて、だけど足が止まる。


「なまえちゃん?」


歩こうとしないわたしに、彼は小首をかしげて、私の顔を見つめてくる。
視線を自分の足元に落として、繋がれた手をほどこうと力を込めると、それをさせないように逆にぎゅっと力を込められた。


「……帰りたくねえの?」


松野くんの言葉に、こくりとちいさく頷く。
んー、と唸る声と、髪をくしゃくしゃ掻く音。


「理由は聞かないけど、帰らないんだよね」


もう一度、ちいさく頷く。


「松野くん、ありがとう、でも、もう遅いし、帰った方がいいよ」


ずっとこんなところにいるわけには行かかないと判ってはいるけれど、身体がいうことを聞いてくれない。


「ダメ」
「え?」
「女の子ひとりにさせらんないって」


顔を上げると、松野くんは見たこともないような真剣な表情で。


「でも、どうすっかな、とりあえずここからは離れたいけど、補導がこえーな」


ぶつぶつと呟きながら前を歩く松野くんに、どうしてここまでしてくれるのだろうと不思議になる。


「松野くん、なんで私にここまでしてくれるの」


わたしの問いかけに、彼はぴたりと足を止めて、少し黙った後、前を向いたまま話し出す。
あ、手のひら、震えてる。


「……なまえちゃんのさ、友達に、聞いて。あんま家好きじゃないみたいだって。そんで今日、連絡取れないって」


そういえば、とポケットに突っ込んだままの携帯電話を思い出す。
誰にも連絡する気になれなくて、電源を切ったままだった。


「心配するって、そんなん。仕方ないでしょ」


好きなんだからさ。
振り返った顔は赤い。
繋がれた手に力が込められて、大きな瞳が私を捉える。
思考がついていかなくて、言葉が出ないまま瞬きを繰り返すしかできない。
松野くん、いま、なんて。


「なまえちゃんさ、」
「今からお前の事誘拐するけど、いいよな」


ぎゅっと握り締められた手のひらは、今度はもう、震えていなかった。













最後のセリフを言わせたかっただけです。
某映画最高でした。

うたかた