長兄に取り合いされる


ぽかぽかと心地いい陽気にぼんやりと流れていく雲を見つめながら、どろりと重くなる瞼にいっそ眠ってしまおうかと葛藤する。
ちら、と目線を下げた先には、腰にくっつくように腕を回してすやすやと寝息を繰り返す赤いパーカー。
うりうりと軽く小突いて離れようとしても、小さくぐずって離れてくれない。


「どうしよ」


気持ちよさそうに眠るおそ松さんはなんだか可愛いし、起こすのはしのびないけれど、でもこんなところ誰かに見られたら困るでしょうに。
いきなり連絡が来て、暇ならうちおいでとお誘いされて。
急だなあと思いつつ、おそ松さんが唐突なのはいつものことで、いそいそ準備をして松野家にお邪魔しているわたしもわたしだ。
チャイムを鳴らすと松野ママが苦笑いしていて、勧められるがまま向かった2階では、呼び出した本人が気持ち良さそうに眠りこけていた。
自由だなあと呆れつつ、子どもみたいな寝顔を堪能していると、あれよあれよという間に彼は私をがっちりホールドして抱き枕にしてしまった。


「おそ松さぁん、」


ぺしぺしと頭を叩いても反応はない。
どうしようとうんうん唸っていると、軽やかな足音とともに、ふすまがすっと開かれた。


「うお」


中に人がいるのは想定外だったのか、部屋に足を踏み入れたカラ松さんが目を見開く。
情けなく眉を下げた私を見て、彼はすぐに状況を察したらしく、いつもすまないな、と苦く笑った。


「なまえは今日は休みか?」
「うん、だからまあいいっちゃいいんだけど、そろそろ苦しい」


やわらかな黒髪をさらさらと撫でて、髪をひと束ちょんちょんと引っ張ってみる。
反応なし。


「起こそうか?」
「うーん、あんまり気持ちよさそうだからさあ、ちょっとしのびないんだよね」
「なまえはやさしいな」
「寝顔ちょっと可愛いしね」


ふふ、と笑えば、カラ松さんが顎に手を当てて、ふむ、と何か考えるそぶりをする。


「邪魔するぜぇ」


キメ顔のカラ松さんが、私の背中側にくっつくように寝転がる。
大きな身体にすっぽりと収まるように抱きしめられて、ええー、と思わずうなり声をあげてしまった。


「兄貴ばかりいい思いするのも、な」


ふっ、と格好つけて、カラ松さんが笑う。


「あつい……」


気温はそこまででもないものの、成人男性2人にぴったりとくっつかれると、じんわりと汗ばむほどの陽気。
チョロ松さんみたいな低体温ならまだしも、おそ松さんとカラ松さんは2人とも体温が高い。


「フッ……俺達の、愛の炎」


なぜか誇らしげなカラ松さんは全く解放してくれる気配はない。
胸元ですやすやと寝息を繰り返すおそ松さんも起きる様子はないし、心なしかわたしの腰に回された腕の力が強くなっているような気がする。


「大人気ないな」


ぽつりと呟いたカラ松さんの、その言葉の意味はわからなかったけど。
胸の下にぎゅうと回された太い腕に、これは当分逃げられそうにもないと、そっと瞳を閉じた。




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四万打企画のものでした

うたかた