いちにちめ・1


『あ、なまえ?ちょ、マジ助けて』
「は?」


慌てた様子のおそ松から電話がかかってきて、一言だけ告げて切られた。
おそ松から唐突な電話がかかってくるのは別に珍しくないし、もう何年一緒にいるかわからないから遠慮もないし、だからってこれは?
むっとしつつも、いつもののらりくらりしたあいつらしくない、珍しく焦った様子を思い出して、仕方ないなあとパーカーを羽織る。
幸いにも化粧はしてたし、まあ部屋着に着替えてしまっているけれど、隣の家にお邪魔するくらいならいいだろう。
玄関でサンダルをひっかけて、歩いて一分。
ピンポンとチャイムを押せば、ドタドタと騒がしい足音が聞こえる。
あと、誰かの鳴き声?


「ん?」


今更嫌な予感がしても、もう遅い。
勢いよく開いた玄関から飛び出してきたのはぐったりしたおそ松、と。


「……ぇっ」


右手に抱えたピンクのパーカー、左手から伸びる黄色いパーカー。
ぱちくりと瞬きを繰り返していると、両脚と腰に小さな衝撃が走る。


「……ごめぇん」


殊勝にも眉を下げたおそ松と、私の右足に抱き着く青いパーカーと、私の左足を控えめにつかむ緑のパーカーと、腰に手をまわす紫のパーカーと。
脳の処理が追い付かなくて、眉を小さく寄せたままちびっ子たちを指さしておそ松に視線を投げる。


「俺一人じゃ無理」
「いやそうじゃなくて」


何でこんなことに、とか、色々聞きたいことはあったけれど、そこはまあ幼馴染。
こいつらの隣に居れば、たいていの滅茶苦茶なことはまあ松だし…と許容してしまう。
でもこれはちょっとびっくりした。


「はにー?」


ぶかぶかの青いパーカーのカラ松が不安げに私を見上げる。
普段のこいつは何を言ってるかわかんないしかっこつけだし意味わかんないけど。


「なまえちゃ」
「なまえちゃん……」


ぽつりと呟いて、ぎゅう、と抱き着く力を強くする一松と、視線は合わせてくれないものの私のズボンを離す気配はないチョロ松。
普段の一松は私とまともに会話もしてくれないし、普段のチョロ松だって自称常識人でちょっと怖いし。


「なまえちゃぁ」
「なまえちぁぁ〜」


おそ松に抱きかかえられてイヤイヤしながら私の方に手を伸ばすトド松も、繋がれたてを振りほどいてとてとてと私に向かって歩く十四松も。
普段のこいつらは本当に人の迷惑も考えないしニートだし童貞だしなのにエロイことしか考えてないし、でも、これは、ちょっと。


「かわいいんですけど」


控えめに抱き着く一松をぎゅうと抱きしめる。
周りのちびっ子たちはずるいとかなんとか泣きそうになってて、慌てて順番にはぐしてやる。
か、かわいいじゃないか。


「……え、なに」
「え、次俺の番でしょ」
「いやおそ松はないから」
「えええええ。贔屓よくないでしょ!」
「いやおそ松大人じゃん」
「俺頑張ったもん!ヤダヤダ!」


いい年こいて暴れるおそ松を無視して、ちびっこのふにふにほっぺを堪能する。


「ちぇ。なまえのケチ」
「電話にすっ飛んできた優しい私にそういうこと言う?」
「あーうそうそ!ごめんん!」


まあまああがってよぉ、と調子のいいおそ松に呆れながら、ちびっこを離して松野家にお邪魔する。
まあ、といってもお隣だし、幼馴染だし、たまにお邪魔してるんだけれども。


「あれ、今日おじさんとおばさんは?」
「それがさぁ〜、一週間旅行とかって〜〜〜」
「は」
「んでまあかくかくしかじかでこいつら元に戻んのも一週間後なんだよね」


だからよろしくねなまえ!
鼻の下を擦りながらてへ、と笑うおそ松に少し殺意がわいた。
こいつ、どうしてくれようか。

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うたかた