かまって−1


恋人はとても秀才だ。
千秋の恋人である勝呂竜士は明陀宗という寺の座主血統で、青い夜以降に落ちぶれてしまった寺を建て直そうと努力に努力を重ねている。
通っている正十字学園では特進だし、祓魔塾でも優秀な成績を修めている。千秋は親が医者なのもあって、医工騎士志望だが、悪魔薬学など医工騎士のための科目ですらたまに竜士に負けることがある。

そんな竜士は規則正しい生活を心掛けていて、特進の勉強と祓魔塾の勉強と、両方の時間をしっかりと取っている。
その上で、今は自習として経典の暗記をしている。
部屋のソファーの上、胡座を掻いて座る竜士は左手で仏教経典を開き、ぶつぶつと小声で唱えながら暗記に励む。先程までは机に向かって学校の勉強をしていた。ソファーに移動したから休憩なのかと思って側に行けば、今度は暗記だ。頑張っている姿に文句を垂れるわけには行かず、仕方なく隣で竜士に寄り掛かって暇していた。

文句を言わないのは、竜士がそんな千秋を意識的にか無意識にか、ある程度構ってくれることもある。
右肩に寄り掛かる千秋が、空いている竜士の右腕をブラブラとさせてもされるがまま。筋肉の筋が浮かんでいるのを見てツンツンとしてみると、力を籠めてくれる。
右手に手を重ねて、大きいなぁ、と呟けば、その大きな手で千秋の重ねた手を握り締める。

ただ、逆に言えばいつもその程度までということでもある。千秋だって勉強せねばならないし、竜士は朝から晩までなにかしらやっている。その片手間にこうやって構ってもらえるだけで、なかなかそれ以上を求めるのも期待するのも難しかった。
しかし竜士の目指すものを応援したい気持ちもあるため、絶対に邪魔にだけはなりたくない。

そんなことを考えながら竜士の暗唱を聞いていたら、だんだんと眠気がやって来る。今日は寝てしまおうか、と思って深く凭れると、察したのか竜士が頭を撫でる。その心地好さに、あっという間に意識を手放した。



***



目覚めると、目の前にTシャツがあり、自分が横になっていることに気付いた。枕にしているのは腕で、目前には厚い胸板。
どうやら、竜士に腕枕されて寝ていたらしい。少し視線をずらせば、背中がソファーの背もたれに接しているのが分かる。落ちないように、自身と背もたれの間に千秋を横たわらせているところに、竜士の優しさが見てとれた。
だが、竜士まで寝ていてもいいのだろうか。リズムが崩れはしないか。


「…竜士、」

「ん…起きたか」


少しだけ掠れた低い声が耳元で響き、ぞわぞわとする。それを隠すように竜士の顔を見上げた。


「ごめん、寝ちゃった。竜士も寝てて大丈夫なの?勉強は?」

「…はぁ、ったく、いつ声かけてくるんかと思えばそれかいな」

「え…?」


竜士はタメ息をつくと、突然千秋を抱き締めた。胸元に顔を押し付けられ、竜士の石鹸の匂いがふわりと香る。


「あんな、俺はお前の恋人やぞ。もっとこう…構って欲しいくらい言えや」

「っ、でも、それ竜士の邪魔に…」

「千秋一人甘やかすくらいで邪魔んなるか!つか俺の癒しかつ息抜きやそもそも!」

「…へっ、」


なんか意外なことを聞いた気がする。
確かめようにも抱き締められていて顔を見れない。だが、少し上がった温度に、照れながらも素直に言ってくれたのだと分かる。竜士が千秋を想ってくれているのだということも。

だから、千秋も正直に伝えなければいけない。受け止めると男前なことを言ってくれているのだから。


「俺…もっと竜士に構って欲しい」

「やっと言いよったな。…当たり前や、構い倒したるで」

「…へへ、やっぱ竜士マジ好き」

「んん"っ……俺もや」


竜士の胸板にすり寄ると、漉くように髪を撫でられる。外からは夕方5時を告げるチャイムが流れてくる。
そんな、ゆったりとした夕暮れだった。


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